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日本経済新聞編集委員 宮内禎一「立ち止まって「住み方」を考えてみる」

「立ち止まって「住み方」を考えてみる」

 転勤族だったこともあり、会社に入ってから20回近く転居してきた。様々な土地に出合えて楽しめた半面、「住む」ことについてはなおざりだった気がする。  

 10数年前、大阪教育大名誉教授の田中恒子さんにお話をうかがったことがある。田中さんは1963年以降、木造アパートから高級住宅まで何百軒も、見知らぬ家を突然訪問して暮らしの現場を見る「住み方調査」を手がけた。調査を土台に住生活の改善を提案するとともに、「自分が住まいの主人公であることを自覚させる」住教育を確立し、家庭科教育にも取り入れられた。

 調査を進める中で、たとえ家は狭くても住み方は改善できると気付いた。「玄関がきれいな家は中もきれい。住み方は生き方の表現であり、住み方が丁寧な人は生き方も丁寧」というのが、田中さんの一つの結論だった。我が身を振り返ると、何ともばつが悪い。

 田中さんからのアドバイスはこうだ。まず「丁寧に住んでほしい」。限りない欲望で物を買いためれば混乱した住み方になる。掃除や整理整頓で住み心地はずいぶん違ってくる。田中さんは手に持ったものはちょい置きせず、その場で片付ける習慣がついているという。  

 第2段階は「美しく住むこと」。「一輪の花でもいいから生けてほしい。住まいの中に美を求める心があるかないかによって、暮らしの豊かさが違ってくる」と話してくれた。

 田中さんは現代美術を購入して居間などに飾っていた。「素晴らしい作品を眺めながら、みそ汁を飲む。これ以上のぜいたくはありません。『簡素というぜいたく。愛着という豊かさ』。これが私の住まいの哲学です」と語っていた。

 「住む」ということで、もう一人思い浮かべるのが「建築界のノーベル賞」といわれるプリツカー賞を今年受賞した建築家の山本理顕さんだ。山本さんは産業革命以降、欧米でも日本でも住宅の形態が大きく変わってきたとみる。かつては地域社会との接点になる「閾(しきい)」が住宅にはあったが、産業革命以降の「労働者住宅」ではプライバシーとセキュリティーに重点が置かれて住宅が社会から切り離され、「1住宅=1家族」の形態になったとする。

 しかしいまや少子高齢化で単身者も増え、「1住宅=1家族」は崩壊しつつある。子どもの独立などで家族の形態も変わるのに、○DKといった住宅の形は変わらず、そこに齟齬(そご)が起きている。空き家の増加や独居老人の問題にもつながっている。

 そこで山本さんが提唱するのが「地域社会圏」という考え方だ。それは住宅に「見世(みせ)」という空間を設け、地域社会とのつながりを持たせる。お店でもいいし、アトリエでも事務所でもリビングルームでもいい。住宅の形態を変えることで、住む人の意識も変えられるとみる。

 「自分が住まいの主人公」であるなら、どうやって「住む」のがいいのか。日常生活に流されがちだが、一度立ち止まって考えるのもいいかもしれない。

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