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遺贈認定NPO法人NPO会計税務家ネットワーク理事長 一般社団法人 全国レガシーギフト協会理事 税理士 脇坂 誠也「遺贈寄付の税務(9回目)」

清算型遺贈について
前回まで、「現物寄付」に関して、特に土地・株式などを公益団体に寄付する際に、「みなし譲渡所得税」が非課税となる租税特別措置法40条の一般特例および承認特例の制度内容を詳しく見てきました。
現物寄付の制度は、非営利団体や寄付を考える方にとって非常に重要な選択肢である一方で、実際には利用件数や団体側の受け入れ体制などに制約があり、普及にはまだ課題があります。
このような背景を踏まえて、今回は、「清算型遺贈」に焦点を当てます。現物ではなく、財産を売却した上で残額を寄付する清算型遺贈には、「現物寄付」にはないメリットと注意点があります。寄付を考えておられる方が、自分の財産や希望に応じてどのような方法を選ぶべきかを判断できるよう、実務上のポイントを整理していきます。
1.清算型遺贈とは?
清算型遺贈とは、現金や不動産などの財産をそのまま寄付するのではなく、一度すべての財産を売却し、そこから借金や税金、手続き費用を差し引いた残りの金額を寄付する方法です。
例えば、次のような遺言を作ることができます。
寄付先は不動産などの現物を直接受け取るのではなく、現金を受け取れるのが特徴です。
2.清算型遺贈の流れ
清算型遺贈は次のように進みます。
① 遺言書を作成する
公正証書遺言などで清算型遺贈を明記します。
② 遺言執行者が手続きを進める
ご本人の死後、遺言執行者が中心となり、財産を売却、費用の精算を行います。
③ 残額を寄付先へ届ける
不動産の売却代金などから税金・費用を差し引いた残りを寄付します。
<清算型遺贈の流れ>
3.清算型遺贈のメリット
清算型遺贈には次のようなメリットがあります。
① 寄付先に負担をかけない
受遺団体が不動産を受け取ると維持・売却に苦労する場合がありますが、清算型なら現金で渡せます。
② 複数の団体に分けやすい
売却後の金額を分けるので、複数団体への寄付が容易です。
③ 寄付者の思いを確実に実現できる
遺言執行者が責任を持って処理するため、寄付者の意志が確実に反映されます。
4.注意すべきポイント
一方で清算型遺贈には、知っておくべき注意点があります。
① 遺言執行者の選び方が極めて重要
清算型遺贈は、不動産等の売却や税金処理等が伴いますので、遺言執行の難易度が高くなります。従って、遺言執行者に、経験豊富で信頼できる専門家を選ぶことが、寄付者の思いを確実に実現するための最大のポイントです。
② 税金の扱いが複雑
不動産を売却すると譲渡益に課税される場合があり、課税のタイミングを巡っては複数の見解があり、税理士など専門家の関与が必須です。
③ 金融機関は対応していない
清算型遺贈は便利な仕組みですが、現状では銀行や信託銀行などの金融機関は取り扱っていません。
金融機関が提供する遺言信託サービスでは、通常「特定の財産をそのまま寄付する」形しか選べず、清算型遺贈はサポートされないのが実情です。
清算型を希望する場合は、弁護士や司法書士に遺言執行を依頼するのが現実的です。
5.清算型遺贈が向いている方
以下のような方には清算型遺贈は向いているのではないかと思います。
① 不動産など現金化しにくい財産を持っている方
② 複数の団体に寄付したい方
③ 団体に余計な負担をかけたくない方
6.まとめ
清算型遺贈は、不動産などを売却し、費用や税金を引いた残りを寄付する方法です。寄付先は現金で受け取れるため活動に使いやすく、寄付者の思いも実現しやすいのが大きな魅力です。
ただし、遺言執行者の力量が清算型遺贈の成否を大きく左右します。信頼できる執行者を選ぶことが、寄付者にとって最も重要な準備といえるでしょう。
「自分の財産を社会の役に立てたい」――その思いを形にする一つの方法として、清算型遺贈をぜひ検討してみてください。