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日本経済新聞編集委員 山口 聡「障害者アートを支援する」

「障害者アートを支援する」

 「アール・ブリュット」という言葉をお聞きになったことはあるだろうか。「生(き)の芸術」などと訳されるフランス語だ。「美術の専門教育を受けていない人が独自の発想や手法で製作した作品」を意味するが、日本では知的障害などを持った人による芸術作品を指すことが多い。コロナ禍で延期になってしまったが、今年は東京でパラリンピックが予定されていたことから、障害者支援の一環として日本各地で「アール・ブリュット」が静かな話題になっている。

 「そうだね。障害者の芸術活動だって支援してあげなきゃね」などとぼんやり思ったあなた。ぜひ、作品を見てほしい。これが結構すごい。美しさ、力強さ、不気味さ、緻密さにあふれているのだ。作品は絵画だけではない。陶芸や織物、木の葉を折ってつくった動物など様々。セロハンテープをぐるぐる巻きにした造形物や、家族写真を手でなで続け、縁が欠けセピア色に変化したといった作品などもある。

 プロの芸術家の作品かと見まがうようなものもあれば、私のような凡庸な人間にはまったくなんだかわからないものもある。でもそれが現代アートとして評価されたりもしている。

 すべてに共通しているのは自由だ。作者たちは「こうあらねばならない」とか、「他の人からどう見られるだろうか」といったことは特に気にしていない。心の赴くままに表現していく。思い返せば私は子どもの頃、美術の時間が嫌いだった。うまく描けないことばかりを気にしていた。実はそんなこと気にすることはなかったのだと、これらの作品が教えてくれる。他人の目など気にせず、もっと自由に、好きなように生きればいいのだと今更ながら思う。

 そんな魅力ある作品をつくる障害者たちの置かれた環境はまだまだ厳しい。福祉作業所で商品の箱詰めなどの軽作業に就いても月給は1万数千円ほど。どこの福祉施設でも障害者の表現活動を十分に支援できるといった環境が整っているわけでもない。活動を支える施設の職員たちの待遇も十分とは言いがたい。最近は作品やデザインの使用権が取引されるようにもなってきてはいるが、それで個人や施設が潤うというほどでもない。

 障害者たちを支援することは、すべての人々の生活を豊かにすることにもつながっていく。アート作品を見ればそれが実感できる気がする。東京では12月6日まで東京都渋谷公園通りギャラリーで「アール・ブリュット2020特別展」が開かれている。ほかの各地でも様々な展覧会などが予定されている。

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日本財団が提唱する、遺贈という名の選択

 障害者がつくるアート作品に地域の中で身近に触れる機会が増えることは、私たちの心にある偏見や固定観念を拭い去ることに役立ちます。日本財団でも、2010年にパリで開催され12万人を超える観客を動員したアール・ブリュット・ジャポネ展を契機に、こうした作品の保存や展示を積極的に支援し、多様な個性に寛容な社会の実現を目指しています。
 日本財団遺贈寄付サポートセンターでは、遺言書で自分の財産を社会貢献のために使いたいという方のご相談をお受けしております。芸術や文化、障害者支援の分野で未来に希望を託したいとお考えの方もどうぞご相談ください。

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