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認定NPO法人NPO会計税務家ネットワーク理事長                    一般社団法人 全国レガシーギフト協会理事                                   税理士 脇坂 誠也「遺贈寄付の税務(10回目)」      

「遺贈寄付の税務(10回目)」         

今回は、遺贈寄付の先進国であるイギリスにおける遺贈寄付の状況について報告します。

1.イギリスの遺贈寄付の状況

 イギリスは世界でも有数の「遺贈寄付大国」として知られ、遺贈寄付(Legacy)がチャリティー(我が国のNPOに相当する)財源の中核を占めています。チャリティー制度には400年以上の歴史があり、寄付文化が社会に深く根付いていることが特徴です。かつて2014~2015年度には全体の遺贈寄付額が約25億ポンド(約5,100億円)とされていましたが、直近の報告によると、2024年には遺贈寄付収入が約45億ポンド(9,180億円*1 )に達し、前年から9%の成長を示しています*2 。 

 遺言書にチャリティーへの遺贈を含む割合についても、意識調査によれば遺言を持つ人の約31%がその中にチャリティー向け遺贈を含めているというデータがあります*3 。
             
*1 1ポンド204円で換算  
*2 Legacy income up by 9% in 2024, says Legacy Giving Report(Fundraising.co.uk, 2025)
https://fundraising.co.uk/2025/05/14/legacy-income-up-by-9-in-2024-says-legacy-giving-report/?utm_source=chatgpt.com
*3 “Stages of Change Benchmark Study” (Remember A Charity / OKO, Mar 2025)
https://www.rememberacharity.org.uk/media/gyfcqnh4/oko-summary-report-2025-public-march-2025-1.pdf?utm_source=chatgpt.com


2. 遺贈寄付が盛んな理由

 イギリスで遺贈寄付が盛んになった背景には、1980年代以降の政府とチャリティーの協働による積極的な推進キャンペーンがあります。特に画期的だったのが、チャリティー団体が弁護士と連携して実施する無料遺言作成週間(Free Will Weeks)です*4。市民が無料で遺言作成サービスを利用でき、その際にチャリティーへの遺贈を記載する例が多くあります。このような取り組みを起点に、チャリティー側が遺贈寄付を意識して支援者と関係を構築する文化が定着してきました。

 さらに政府も、HMRC(英国の税務当局)を中心に寄付促進の広報や税制改革を積極的に行い、2000年にはチャリティー業界団体による全国的キャンペーンが行われ、遺贈寄付を推進するための団体として「Remember A Charity」が設立されました。これは国全体で遺贈寄付を推進する象徴的な取り組みであり、政府の公式サイトにも案内が掲載されています*5 。チャリティー側の「生前からの関係構築+遺言作成支援」という仕組みと、制度上の後押しが相まって、遺贈寄付が定着・拡大してきました。

 最近の動向では、支援者に実際にボランティア活動を経験している人、あるいはチャリティーのサービスを受けた人・支援した人が、遺贈寄付を行う可能性が高いという分析もあります。たとえば、「ボランティア経験者(29 %)」「チャリティーから支援を受けた・募金等に関わった人(28 %)」が遺贈を残す意向を示しており、チャリティーとの「関わり」が遺贈行動につながるという実証データが提示されています *6
             
*4 わが国では、遺贈寄付の遺言書の作成費用を助成するフリーウィルズキャンペーンが一般財団法人 Will for Japanにより行われています。
https://willfor.org/
*5 このことがきっかけで国際遺贈寄付の日が9月13日に設定され、我が国でもその前後に「遺贈寄付ウィーク」が行なわれています。
*6 “Charitable legacies most likely from younger will-makers and volunteers” (Fundraising.co.uk, May 2025)
https://fundraising.co.uk/2025/05/02/charitable-legacies-most-likely-from-younger-will-makers-and-volunteers/?utm_source=chatgpt.com


3. 税制上の優遇措置

 イギリスで遺贈寄付が拡大している大きな理由の一つが、明確で魅力的な税制優遇です。英国の相続税(Inheritance Tax, IHT)は被相続人の遺産に課税される「遺産税方式」であり、基礎控除325,000ポンド(6630万円)を超える部分に通常40%の税率が適用されます。さらに、チャリティーへの遺贈は全額が課税対象外とされており、遺贈を含めることで課税遺産額を削減できます。加えて、遺産の10%以上をチャリティーに遺贈した場合には、税率が40%から36%に引き下げられる特例制度も導入されており、遺贈を選択する強いインセンティブとなっています*7 。
             
*7 Tax relief when you donate to a charity(GOV.UK)
https://www.gov.uk/donating-to-charity/leaving-gifts-to-charity-in-your-will?utm_source=chatgpt.com


4. 現物資産寄付の優遇 ― キャピタルゲイン非課税+所得控除100%

 イギリスでは現金だけでなく、不動産・株式等の現物資産の遺贈寄付も活発です。その理由として、以下の税制上の優遇があります。まず、我が国のみなし譲渡所得税のような制度はなく、不動産等の現物寄付をしても、キャピタルゲイン税が発生しません。つまり、含み益のある資産をチャリティーに遺贈しても譲渡益課税が免除されます。 さらに、寄付者は寄付した資産の時価相当額を所得から100%控除できます。この制度には我が国のような「総所得金額の40%まで」というような制限がなく、現物寄付が非常に税制上有利になります。加えて、チャリティー側の要請に応じて資産を売却して金銭化する場合でも、その売却がチャリティーの方針・依頼によるものと証明されれば、キャピタルゲイン税の課税が免除されます*8 。
こうした柔軟な仕組みにより、不動産・株式等の現物を遺贈として活用する動きが強まっています。
             
*8 Donating land, property or shares
https://www.gov.uk/donating-to-charity/donating-land-property-or-shares?utm_source=chatgpt.com



5. 遺贈寄付が支えるチャリティーの財政

 イギリスの大手チャリティーにとって、遺贈寄付は主要な収入源です。最新報告では、遺贈寄付は、上位1,000団体において寄付収入の平均約30%を占めており、動物保護、環境、障がい支援といったテーマ型チャリティーでは最大で50%近くになるケースもあります。

 遺贈寄付は年ごとに変動があるものの、チャリティーにとって比較的安定的で長期的な財源として位置づけられており、支援者を生前から関係構築し、遺言記載につなげるマーケティング戦略も備えられています。遺贈を選択した支援者自身も、「自分の遺産が社会価値の創造に使われる」という意識を持っており、チャリティーへの遺贈を自己実現・社会貢献の一手段として捉えています。

 最新調査では、遺言を持つ人のうち1/3程度(約31%)がチャリティー贈与を含んでいるというデータがある一方で、「遺言にチャリティーを含める意向を持つ人」はもっと多く、将来的な成長余地が依然として大きいと考えられています。


6. まとめ ― 日本への示唆

 イギリスの遺贈寄付が成功している理由は、次の三点に集約されます。第一に、官民一体で遺贈寄付を推進する長期的なキャンペーン体制。第二に、相続税の税率軽減やキャピタルゲイン非課税等、強力な税制インセンティブ。第三に、無料遺言作成サービスやチャリティーによる寄付者支援の仕組みの充実。これらはすべて「寄付者の意思決定のハードルを徹底的に下げる仕組み」であり、日本の遺贈寄付促進においても大変参考になります。特に日本では、現物寄付に対してみなし譲渡課税が課されることが大きな障壁となっていますが、英国はむしろ「現物寄付の方が得になる」ほど税制的に優遇しており、この点においても大きな違いがあります。英国の成功例は、遺贈寄付を「善意頼み」ではなく、制度と文化で支えることの重要性を示しています。

日本財団が提唱する、遺贈という名の選択

イギリスでは官民一体となった遺贈寄付推進体制が整えられ、チャリティ団体によるサポートもあるようです。それに倣い日本財団遺贈寄付サポートセンターでも、相談体制を整え遺言書で財産を社会貢献のために使いたいと考える方のご相談をお受けしています。お気軽にお問い合わせください。

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