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金融日本経済新聞 編集委員 兼 論説委員 山本由里 「金投資は「まだ間に合う」?」
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金(ゴールド)の価格上昇が続いています。指標となるニューヨーク市場における先物価格は2月頭現在、過去最高圏にあります。さらに日本での国内価格は円換算されて決まるので、円安の昨今は上昇に一段と拍車がかかります。2月4日時点の国内小売価格(税込み)は1グラム1万5499円。連日で史上最高値を更新しています。4半世紀前の2000年頃は1グラム1000円でしたから実に15倍の水準です。
なぜ今、金なのでしょう? 黄金それ自体の魅力は明白ですよね。古代エジプトのファラオのマスクにも使われているように、その輝きは大昔から人々を魅了し続けてきました。何があっても価値がゼロになることは考えにくい実物資産です。しかもその量は有限。これまでに掘り出された総量はオリンピックサイズのプール4杯に満たないとされます。それだけ希少性があるわけです。
その限られたお宝を巡って時々刻々、様々な政治的・経済的要因が絡み合って価格が決まります。まず「有事の金」と言われるように先行きに不安が高まる局面では買われやすい。まさに2020年の新型コロナウイルス禍以降の我々が生きる世界がそうです。さらにロシアによるウクライナ侵攻、ガザでの争乱と続き、極めつきが「トランプ2.0」。何をするかわからない米大統領の再登板によって、地政学リスクだけでなくインフレ懸念まで高まった現下の状況でマネーが金へと押し寄せているわけです。
物価が上昇すると現金の購買力が低下します。現金や債券といったペーパーマネーがインフレに弱いのに対して、モノである金は価値を保ちやすくインフレに連動して上昇する傾向があります。移民を強制送還したり、貿易相手国に高関税をかけたりするトランプ大統領の政策はインフレ圧力を高めるものです。
とはいえ、金には大きな弱点もあります。利息を生まないことです。利息が次の利息を生み、時間の経過と共に雪だるまのように膨れ上がる「複利パワー」は投資の基本。その点が株式や債券、投資信託といった配当、利子、分配金を生む金融資産との決定的な違いです。先行き不安が減じ、経済が順調に回り他の金融資産が十分なインカムゲインを生む局面では相対的に人気薄になります。
つまり資産運用の主役となる投資対象ではありません。英語で「オルタナティブ」と呼ばれる通り、代替的な存在なのです。価格が上昇すると「もう遅い」「まだ間に合う」論が盛り上がりますが、金は主役ではない、万一に備えるような性格の資産だと理解すれば「遅すぎる」ということはない、と言えます。災害に備えるのに遅すぎることがないように――。
個人による金への投資法は大きく3つに分かれます。①現物を保有(延べ棒、金貨、宝飾品)②純金積み立て③投資信託です。それぞれにメリット、デメリットがあるので自分にあった方法を見つけるといいでしょう。
①はわかりやすく簡単ですが購入額は高めで盗難リスクに気を配る必要があります。そういえば最近、とあるメガバンクで貸金庫から行員が盗むというビックリ事件もありました。
②は三菱マテリアルや田中貴金属など地金商が取り扱っています。近年はSBIや楽天などネット証券も参入しています。1000〜3000円など少額で毎月コツコツ、定額買い付けを行います。
③は金価格へ連動するよう運用する投信です。純金積み立てよりさらに少額の100円単位から購入でき、機動的に売り買いできる上場投資信託(ETF)のタイプもあります。
金投資の手数料は概して高い上、税金面での注意点も多いです。それでも「備え」は必要なもの。まだの方は運用資産の1割程度を目安に金への投資を組み込んでみてはいかがでしょうか?