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遺贈認定NPO法人NPO会計税務家ネットワーク理事長 一般社団法人 全国レガシーギフト協会理事 税理士 脇坂 誠也「遺贈寄付の税務(5回目)」
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みなし譲渡所得税の対策(その2)
前回、みなし譲渡所得税の対策として、居住用財産に適用される3,000万円の特別控除や寄付金控除を活用して、みなし譲渡所得税の税額を減らす方法について説明しました。
今回は、みなし譲渡所得税自体を減らす方法ではありませんが、みなし譲渡所得税の問題点の一つである「税額を相続人が負担する」ことを防ぐための対策を2つご紹介します。
1. みなし譲渡所得税の問題点
みなし譲渡所得税の問題点の一つとして、みなし譲渡所得税は年々の値上がり益(キャピタルゲイン)を財産の移転時に清算するという考え方を取るため、みなし譲渡所得税の納税義務者は、寄付をもらった受遺団体ではなく、寄付を行った寄付者である点が挙げられます。
遺贈寄付(遺言による寄付)の場合、寄付者である被相続人は死亡しているため、被相続人の債務は相続人や包括受遺者が引き継ぐことになります。特定遺贈の場合、受遺団体が被相続人の納税義務を負うことはないため、相続人がみなし譲渡所得税の全額を負担することになります。
相続人の立場では、不動産等を被相続人の意思で法人に遺贈することは許容できても、その分の税額を負担することまでは許容できない場合もあるでしょう。一方で、受遺団体が遺贈寄付を受けた不動産等を売却するのであれば、その売却金額からみなし譲渡所得税を支払うことはそれほど問題とはならないと考えられます。
しかし、もし何も対策を取らず、受遺団体が相続人のみなし譲渡所得税を負担する場合、その負担額は相続人への贈与と見なされ、相続人に課税される可能性があります。また、法律上、本来負担する必要がない税額を相続人の意向で受遺団体が支払うことは適切ではありません。
では、どのような対策が考えられるでしょうか?
2. 遺言で受遺団体が税負担をする旨を明記する
対策の一つ目は、遺言にみなし譲渡所得税の負担を受遺団体が行う旨を記載することです。具体的には、以下のような文言を遺言に記載します。
遺言者は、遺言者の有する次の土地、建物を公益財団法人〇〇に遺贈する。なお、その遺贈に伴って発生する税金は、公益財団法人〇〇が負担するものとする。 |
このように明記することで、みなし譲渡所得税が相続人への贈与と見なされることを防ぐことができます。
3.清算型遺贈とする
対策の二つ目は、清算型遺贈とする方法です。清算型遺贈とは、遺言により相続財産を換価し、その換価代金で税金を含む諸経費を清算した後、残額を受遺者に分配する方法です。具体的には、以下のように記載します。
遺言者は、遺言者の有する全ての財産を換価処分し、その換価金から換価にかかる諸経費、遺言執行者に対する報酬及び遺言者の債務・負担を控除した残額を公益財団法人〇〇に遺贈する。 |
清算型遺贈では、不動産は被相続人死亡後に相続人名義に変更したうえで売却されます。そのため、相続人が売却したと見なされ、相続人の確定申告で譲渡所得税を計算するという意見もあります。ただし、清算型遺贈では相続人に売却を拒む権利がないため、売却が相続人の意思とは無関係に行われることを考慮すると、被相続人のみなし譲渡課税として扱うべきと考えられます。この場合には、課税上の取り扱いは、「2. 遺言で受遺団体が税負担をする旨を明記する」と同様になります※。
2の遺言で受遺団体が税負担をする旨を明記する場合には、不動産等の名義は、受遺団体に変更したうえで、受遺団体が売却手続きを行うことになります。一方、3の清算型遺贈の場合には、不動産等の名義は、相続人に変更され、遺言執行者が売却手続きを行う点が大きな違いです。
※清算型遺贈については、相続人の確定申告で譲渡所得を申告すべきという意見と、被相続人の準確定申告でみなし譲渡所得税を申告すべきという意見と両論あり、国税庁から明確な指針は示されていません。
4.注意点
以上の対策は、不動産等を受贈した受遺団体がその不動産を売却できることが前提です。しかし、遺贈寄付を希望する方が「寄付は構わないが、売却はしてほしくない」と希望する場合もあります。このような場合、受遺団体は売却代金を基に税額を支払うことができず、法人の自己財源から税額を負担する必要があります。
そのため、このような場合には、みなし譲渡所得税を相続人に負担してもらう旨を生前に被相続人から相続人にしっかりと伝えることが重要です。