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あんしんステージ法務・福祉事務所 代表 塩原 匡浩石原裕次郎の遺言が時を経て執行された訳

石原裕次郎の遺言が時を経て執行された訳

 昭和の大スター石原裕次郎さん。その名前を聞くだけで、ダンディーな在りし日の姿が、脳裏を駆け巡る方も多いのではないでしょうか?私も子供の頃に太陽にほえろ!を見て、緊迫感のあるやり取りにハラハラドキドキさせられたものです。1987年7月17日に石原裕次郎さんが亡くなられてから、ちょうど33年後のその日に、「遺言」の一部が石原まき子会長から公表され、更に2021年1月16日を以って「株式会社石原プロモーションの商号を石原裕次郎氏仏前に返還することに全員一致で決定致しました」と発表されました。まき子夫人だけが知る石原裕次郎さん最期の言葉は「俺が死んだらすぐ石原プロをたためよ」だったそうです。石原裕次郎さんとの約束を守り続けてきたまき子夫人ですが、この「遺言」だけは守りませんでした。でもなぜこのタイミングで「遺言」内容が発表され、そして執行されることになったのでしょうか?そこには「遺言」の持つ最大の弱点ともいうべき秘密があるのです。今日はその「遺言」のからくりを石原裕次郎さんの事例と共に解説してみたいと思います。

(挿入データ)石原まき子会長からの文書(東京中日スポーツより転写)2020,7.21 (1).jpg

石原プロモーション"解散"を知らせる石原まき子会長からの文書(東京中日スポーツより転写)

1. 相続発生時のルールはどうなっているのか?
 まず解説に入る前に、相続手続きの基本から見てゆきましょう。相続発生時には法定相続人に応じて「法定相続分」が定められています。その基本3パターン(民法第900条)は以下の通りです。
パターン1 被相続人に配偶者と子がいる場合 【配偶者1/2、子供1/2】
パターン2 被相続人に子がなく、配偶者と親がいる場合 【配偶者2/3、親1/3】
パターン3 被相続人に子がなく、配偶者と兄弟(姉妹)の場合【配偶者3/4、兄弟1/4】

2. 石原家の家系図に基づく相続発生時の法定相続分について
 公開情報をベースに石原家の家系図を作成してみました。

キャプチャ (1).jpg

 石原裕次郎さんとまき子夫人の間には、(相続発生当時)子供がいませんでした(現在はまき子夫人の甥と養子縁組をしたという話もあります)。となると石原裕次郎さんの相続人は、上記のパターン3となります。つまり法定相続上では、まき子夫人3/4、兄の石原慎太郎さん1/4となります。しかし報道によると石原裕次郎さんは「遺言」をしたためていたそうなので、子供のいなかった石原裕次郎さんは、「すべての財産をまき子夫人に相続させる」という内容の「遺言」を遺されていた可能性があります。もしそうであれば「遺言」は、法定相続分より優先されるため石原慎太郎さんの相続分はなく、まき子夫人おひとりのみが相続人ということになります。相続人がひとりだけであれば、如何に多額の財産があろうとも骨肉の争いも起こりようがありません。

3. 「遺言」のルールはどうなっているのか?
 「俺が死んだらすぐ石原プロをたためよ」と言うのは報道の中で、「遺言」(文書)の一部と言われたり、まき子夫人だけが知る「石原裕次郎さん最期の言葉」と言われたりしているので、実際に石原裕次郎さんの「遺言書」に法的効力のある形で記載されているか否かは定かではありません。それを確かめるには「遺言書」の現物を確認するしかありませんが、まず不可能でしょう。当然ながら口頭だけでの「遺言」(言葉)では民法上の法的効力はありませんが、今回のコラムでは法的効力のある「遺言」として書面で遺されていたと仮定して話を進めます。
 ここであなたに「遺言」に関して、お伝えしたい大切なことがあります。それは「遺言」は絶対的な効力を持つものではないということです。相続はいつ起きるかわからず、もし相続が発生しても、「遺言」作成当時と相続発生時での財産状況等が大幅に変わってしまっていることがあります。そのような場合は法定相続人間で遺産分割協議を行い、全ての法定相続人合意の上で「遺産分割協議書」を作成して、各法定相続人が実印押印と印鑑証明書を提出すれば、「遺言」に依らない遺産分割が可能になるのです。つまり財産分与等に関する事項については、被相続人(遺言者)の「遺言」内容が無効になることもあるということです。もちろん当初から法的効力の存在しない付言に書かれた内容に関しては、遺産分割協議での影響が及ばず、遺言者の想いが尊重されるであろうことは言うまでもありません。


 またご参考までに、法定相続人には「遺留分」という法律で保障された最低限を相続する権利が保障されています。例えば「全ての財産を愛人〇〇に遺贈する」と「遺言」に書かれていた場合に、それが故人の最後の意思であっても、遺族からしてみれば親族でもない人が遺産を相続することに対して反論したいのが人情かも知れません。そんな時に「遺留分」を有する者は、その権利を行使することで最低限の遺産を相続することができます。ここでのポイントは、兄弟姉妹には遺留分がないということです。今回の石原裕次郎さんのケースでは「遺言」が存在する前提なので、兄である石原慎太郎さんには「遺留分」がないのです。石原慎太郎さんにしてみれば「そんなもの俺はいらないよ」と言われるかもしれませんが、ここはあくまで法律解釈上の話です。このように子供のいない夫婦の場合、「遺言」を遺すことで配偶者に全ての財産を相続させることが出来るのです。この「遺留分」は説明が難しく言葉だけだと誤解を生じやすいので、また別の機会に解説したいと思います。

4. 石原裕次郎の遺言が相続時に執行されなかった理由と執行させる為の方法とは?
 それではいよいよ本題です。「俺が死んだらすぐ石原プロをたためよ」と言う石原裕次郎さんの「遺言」に、まき子夫人はなぜ従わなかったのでしょうか?現時点で入手でき得る情報は限られているため、私の経験と推測を踏まえて検証してゆきます。報道では、「俳優さん、スタッフの皆さんはいつも生き生きとされていて会社に対する愛情の強さがひしひしと感じられ、この人達ならば会社をお任せするべきと思い、『遺言』を言い出す事が出来なくなっておりました。その結果として皆様方ご存じのとおり、亡き後30数年間無事に会社を運営して頂いた次第です。」とまき子夫人は説明されています。昨年の三十三回忌法要にて、まき子夫人から「これで弔い上げします」という発言もあったそうなので、まき子夫人ご自身はじめ、渡哲也さんや会社スタッフの方々も高齢で体力が低下し、石原プロの実務面での対応が難しくなってきたという理由もあったのでしょう。しかし先程も説明した通り、いかに石原裕次郎さんの「遺言」であろうとも、「唯一の相続人であるまき子夫人の意思が『遺言』に優先された」ということなのです。つまり「遺言」は絶対的なものではないのです。


 では石原裕次郎さんが自分の「遺言」をどうすれば即時執行出来たのでしょうか?それには「遺言執行者」を選任する方法が考えられます。「遺言執行者」とは、「遺言」の内容を実現するために必要な一切の行為をする権限を持ち、相続人の代表者として遺言内容を執行していく人のことです。もちろん石原プロモーションもしくは石原裕次郎さん個人には顧問弁護士がいたと考える方が自然なので、通常ならその方が「遺言執行者」として、「遺言」に名前を連ねることでしょう。しかし石原裕次郎さんの推定相続人は、まき子夫人おひとりです。多分まき子夫人を心から愛し、信頼していた石原裕次郎さんは「遺言執行者」をつける必要性を感じず、選任すらしなかったのかも知れません。そして石原プロモーション(石原軍団)と言う法人の存在自体も含めて、全てをまき子夫人に託したのかも知れません。結果としてまき子夫人の英断により、石原裕次郎さん亡き後も、石原プロが存続して我々に夢と希望を与えてくれたことは紛れもない事実なのです。


 しかし今回の事例でもおわかりのように、「遺言」の内容が100%実現できるか否かを担保することはできません。もしこれをお読みのあなたが、法定相続人以外に「〇〇〇〇に寄付して社会貢献してみたい」という遺贈等の財産処分に関する希望や、「自分の最後の意思としてどうしても実現したいことがある」という想いをお持ちなら、「遺言執行者」の選任を含めた事前対策を万全に行うことをお勧めします。「遺言」はある意味結果論の産物であり、自分の意思に反して実行されることも想定して入念に準備しておくことが肝要なのです。

日本財団が提唱する、遺贈という名の選択

 ご自身の遺言書には、どなたもご自身の最後まで大切にしてきた「思い」を遺言書に遺されます。遺言書に書かれた故人の「思い」を実現するために、遺された親族や周囲の方々は一生懸命努めることでしょう。そのためにも、遺言書は間違いなく執行されるように、法的な書式に則って記載し遺言執行人も指定しておくことが大切です。
 日本財団遺贈寄付サポートセンターでは、遺言書であなたの財産を未来のために遺したい、遺贈をしたいと考える方のご相談をお受けしています。お問い合わせ、資料請求はHPのお問い合わせ欄からどうぞ。お待ちしております。

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