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終活あんしんステージ法務・福祉事務所 代表 塩原 匡浩「オンライン診療と遺言書保管制度」
今日の東京は冷たい雨が降っています。まるで昨今の世相を反映しているかのようにも思えます。こんな状況下でも日々患者と向き合い、真摯な活動を続けている医療関係者の方々に心からの敬意を表します。そして、新型コロナウイルス禍を国難と捉え、大幅に不足する病床確保に向けて、船の科学館(東京・お台場)など2ヶ所にて新設病床1万床確保の緊急対策を実施しようとしている日本財団を応援したいと思います。
さて、日本国政府が新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐべく、安倍政権が4月8日に緊急事態宣言を発出しました。先の見えない不安が、こんなにも心の負担として圧し掛かってくるのかと感じています。
でも我々日本人は、古来より様々な艱難辛苦を知恵と工夫で乗り越えて来ました。今回のコロナ禍に対しても、柔軟に対処してゆくことを信じたいと思います。その柔軟さのひとつの例として、オンライン診療が4月13日(月)より開始されました。今回実施されることの大きな特徴のひとつは、「初診診療であっても受診可能」となった事です。詳しくは厚生労働省「オンライン診療に関するホームページ」をご覧ください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/rinsyo/index_00010.html
私もちょうど今週かかりつけのクリニックに行く予定としていました。さっそくこのオンライン診療にチャレンジです。まずはクリニックの医師に電話し、いつもの定期診療をオンライン診療に変更してもらいたい旨を伝え、薬剤の長期処方(2箇月分)を申し出ました。医師は現在の私の健康状態を尋ねた上で、前回と同じ薬剤を処方してくれました。処方箋をかかりつけ薬局にFAXすることも承諾してくれました。
しかし、処方箋の有効期限はオンライン診療日から4日以内であり、なおかつ電話診療は今回限り、長期処方は行わないと私に告げました。診療後に調剤薬局に電話した際には、「あなたが初めてのケースです」と言われ、あたかも私個人の我侭で振り回してしまったかのような後ろめたさを感じました。
今回の経験で私が感じたのは以下の2点です。まずはこの国難ともいうべき緊急事態に、医療機関側にも戸惑いが見られたこと。医師はイレギュラー対応にはあまり積極的でなく、危急時における臨機応変な対応には柔軟に対応しているとは言い難いと感じました。それは単に慣れていなかったということかも知れませんが、現時点では医療機関と一般市民の間では意識のズレがあり、使い勝手の良い制度と成るのはこれからであると感じました。
制度改正と言えば約40年ぶりの民法改正により、「自筆証書遺言書制度」も今年7月10日より新しく生まれ変わろうとしています。待望の「法務局における自筆証書遺言書保管制度」が始まるのです。いままで自筆証書による遺言書は、自宅で保管されることが多く、せっかく作成しても、紛失したり、捨てられてしまったり、書き換えられたりするおそれもありました。そこで、こうした問題を防止し、自筆証書遺言をより利用しやすくするために、「自筆証書遺言の法務局保管制度」が施行されることになったのです。
私が思うに「遺言」は日本人にとってはイメージが良くなく、10人にひとりも書いていないという実情がありますが、私はこれを日本人の生活に、「遺言を書く習慣」がなかったからであると分析しています。そして今回の民法改正では遺言制度の方式緩和により、「遺言を書く習慣」を根づかせることが出来得る可能性があるのです。
これまでは自筆証書遺言は添付する財産目録も含めて、全文を自筆で書く必要がありました。法的要件として銀行の口座番号も、不動産の住所や地番も、一字一句間違わぬように記載することが求められていた為に、遺言者の負担が重く自筆証書遺言が敬遠される事があったのです。その遺言者の負担を軽減するため、遺言書に添付する相続財産目録については、パソコンで作成したものや、不動産の登記事項証明書のコピー、固定資産税の納税通知書のコピー、預貯金通帳や残高証明書のコピーなどでもよくなりました。
また法務局に電子データで保管することによって、遺言書が存在している事実をより明確に把握できます。遺言書が紛失したり、変造されたりする心配もありません。そして「自筆証書遺言の法務局保管制度」が画期的なのは、被相続人の死亡後に、相続人の誰かが「遺言書情報証明書」の請求や「遺言書の閲覧」をした場合、その遺言照会をした相続人だけでなく、他の相続人にも法務局から通知がなされることです。そうなれば、いままで音信不通であった親族にも、相続人等(相続人・受遺者・遺言執行者)であれば法務局から通知が行くことになり、「遺言」の効用による利益を、本人だけでなく親族関係者も享受できる可能性が出てきます。
規制緩和によりプラス面が強調された制度改正という意味では、「オンライン診療」と「法務局における自筆証書遺言書保管制度」の共通点を見出すことが出来るように思います。しかしどちらの制度も緒に就いたばかりであり、本当の意味で我々の生活に馴染むにはもうしばらく時間を要することでしょう。「むずかしいことをかんたんに」という時代の流れは止めることが出来ません。遺言制度が変わることによって、さまざまなドラマを生み出すことになるであろうと感じるのは、多分私だけではないでしょう。でもまもなく、そういう時代がやってくるのです。
日本財団が提唱する、遺贈という名の選択
自筆証書遺言書が法務局で保管されるようになることで、遺言書を書くことの難しさはかなり緩和されることでしょう。遺言書は財産の遺し方を伝えるだけでなく、遺言書であなたの「思い」を未来に繋ぐことができます。それが遺贈です。日本財団遺贈寄付サポートセンターでは、遺言書であなたの財産を未来の社会貢献に活用したい、遺贈をしたいと考える方のご相談をお受けしています。