読み物

吉田修平法律事務所 弁護士 吉田 修平「遺品(残置物)整理問題について」

「遺品(残置物)整理問題について」

 賃貸人が、建物を一人暮らしの賃借人に賃貸していたが、賃借人が死亡した場合に建物賃貸借契約や建物内にあった動産(残置物=賃借人の遺品)は、どうなるのか。

 賃借人の死亡により、賃借人の権利と義務は全て相続人に相続されるが(民法896条)、相続人が複数いる場合には(共同相続)、残置物等の相続財産は共同相続人に共有されることになる(民法898条)。共有物等の変更や処分は、共有者の全員の同意がなければすることはできない(民法251条等)。

 賃貸借関係も、賃借人の死亡により相続され共同相続人が共同賃借人となる。そして、賃貸借契約が合意解除や債務不履行解除により終了した場合は、賃借人は建物を原状に復して賃貸人に返還しなければならないが(原状回復義務・民法621条)、賃借人の死亡により原状回復義務も共同相続人に相続されるので、共同相続人は残置物を建物から撤去した上で賃貸人に明け渡さなければならない。

 他方、賃借人の遺品である残置物は共同相続人の共有財産になるので、賃貸人が勝手に処分することはできない。
 また、賃貸借契約書には「賃借人が賃貸借契約終了後も動産類を撤去して明け渡さないときは、賃借人は動産類の所有権を放棄したものとして賃貸人が任意に処分でき、賃借人は異議を述べない」旨の規定を定めることもよくあるが、賃借人死亡のケースでは、そもそも賃貸借契約がまだ終了していないので、賃貸人は、まず、死亡した賃借人との間の賃貸借契約を解除しなければならないことになる。賃借人は、死亡した後、賃料を支払っていないので債務不履行となり、賃貸人はそれを理由として解除をすることになる(民法541条)。契約の「解除」は相手方に対する意思表示によってすることになるが(民法540条)、この場合の相手方は賃借人の相続人である共同相続人になる。

 以上より、賃貸人はまず、相続人が存在するのか、存在する場合にはその氏名や住所等の調査をしなければならないことになるが、それにかかる時間、費用、労力の負担は大変大きなものになるし、相続人が判明した場合に、相続人との交渉をする必要が生じ、相続人が不存在又は不明な場合には、「相続財産清算人」の選任による処理をしなければならなくなるので、賃貸人には、さらに時間、費用、労力の負担が大きくかかることになる。

 そこで、建物の賃貸借全般について、残置物の処理に関する「モデル契約条項」が策定(国土交通省令和3年10月)されており、賃借人が賃貸建物に入居する際に、賃貸借契約とは別に締結するべき委任契約書等のモデルが示されている。

 具体的には、賃貸借契約の解除と残置物の処理(残置物の廃棄、指定先への送付等)方法について、①賃貸借契約を終了させるための代理権を受任者(例えばイトコ等の親戚や知人等)に授与し(解除関係事務委任契約)、②残置物の廃棄等の事務を受託者(例えばイトコ等の親戚や知人等)に委託する準委任契約(残置物関係事務委託契約)を締結する。(なお、①の契約について、賃貸人は賃借人(の相続人)と利害が対立することもあり得るので、賃貸人を受任者とすることは避けるべきとされている。)

 これらの契約が締結されていない場合は、賃借人の死後に、①賃貸借契約を終了させることも、②残置物を処分することもできないことになってしまうので、その場合は、原則に戻り、相続人を調査し、相続人が不存在の場合や不明の場合は「相続財産清算人」の選任による対応をするしかないことになってしまう。

 従って、建物所有者が一人暮らしの高齢者に建物を貸す場合、または、賃借人が高齢化し、一人暮らしとなった場合には、上記の委任契約書等を締結しておく必要が生ずるのである。

日本財団が提唱する、遺贈という名の選択

老後の住み替えの契約の際、遺す財産についての配慮も必要ですね。日本財団遺贈寄付サポートセンターでは、人生の最期に残る財産を社会貢献のために使いたいと考える方のご相談をお受けしています。ホームページ、お電話でお気軽にお問い合わせください。


遺贈について詳しく知る

未来への贈り物、遺贈未来への贈り物、遺贈
受付時間 9:00-17:00 0120-331-531
  • 資料請求
  • お問合せ