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日本経済新聞編集委員 宮内禎一「地震発生の日を備え確認の日に」

「地震発生の日を備え確認の日に」

 宮崎・日向灘を震源とするマグニチュード(M)7.1の地震が8月8日に発生したのを受けて、気象庁は南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)を初めて発表した。政府は1週間は特別な注意をするよう求めたが、幸いその後に関連する地震は起きていない。広範囲に影響を及ぼす南海トラフ地震への関心は一時的に高まったものの、地震に備える行動に結びついたのか懸念が残る。

 ちょうど20年前の2004年12月26日、インドネシア西部のスマトラ島沖を震源とする「スマトラ島沖地震」が起きた。地震の影響で同国だけでなくタイ、スリランカ、インド、さらには遠くアフリカまで津波が及び、「インド洋大津波」と言われたのを覚えている方も多いと思う。津波の死者だけで約23万人に上り、観測史上最悪の事態となった。

 当時、シンガポールに駐在していた私は支援物資を運ぶ同国空軍の輸送機C130に同乗し、スマトラ島北西端のバンダアチェに入った。そこから震源地に近い海岸の街ムラボまでは空軍のヘリコプターに乗せてもらった。

 上空から見た光景を今も忘れられない。ムラボに近づくにつれて海岸線付近に建物がなくなっていった。最初は原野かと思ったが、うっすらと建物の土台の痕跡があったりモスクの一部が残っていたり、人が住んでいた地域だったとわかった。そして建物が密集するムラボの街はあちこちで煙が上がっていた。

 ヘリはシンガポール海軍のフリゲート艦に着艦し、上陸用舟艇で上陸した海岸はがれきの山だった。海岸からかなり離れた場所にも漁船が打ち上げられており、津波のエネルギーの大きさが想像をはるかに超えたものであることを実感した。

 それから約6年後。東日本大震災の様子をテレビで見て、インドネシアの被災地とまったく同じだと思った。その後も熊本や北海道東部で大地震が起き、今年1月1日には能登半島地震が発生した。これだけ頻繁に地震に見舞われているのに自分事になかなかならないのは、物事を都合良くとらえて「大したことではない」「自分は大丈夫」と思う正常性バイアスによるものだろう。

 今回の南海トラフ地震臨時情報を受けて東京大学総合防災情報研究センターが実施したインターネット調査によると、臨時情報を認知していた人は83%に上ったが、情報を知った後の行動では「水や食料などの備蓄を確認した」が20%。「家族との連絡方法を確認した」は9%、「家具の転倒防止を確認した」は8%に過ぎず、「特に何も行動はとらなかった」が21%に上った。

 来年1月17日で阪神淡路大震災の発生から30年を迎える。毎年その日が巡ってきてしっかり報道されるのは、災害を忘れないうえで大きな意味がある。被災の日が巡ってくるたびに、家庭での備蓄や避難ルート、連絡先、家具の転倒防止策を確認することが、災害で亡くなった人々の鎮魂にもなるのではないか。

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