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遺贈日本経済新聞 編集委員 兼 論説委員 山本由里 「個人投資家の大事な心得」
驚いた方も多いのではないでしょうか?世界の金融市場が突然の「夏の嵐」に翻弄されています。日経平均株価は8月5日に4451円と史上最大の下落を演じたかと思えば、翌6日は過去最大の上げ幅(3217円)を記録するジェットコースター状態。弊社でも「号外」を出すなど大忙しの数日でした。
特に今年は新しくなった少額投資非課税制度(NISA)を利用し、「貯蓄から投資」を始めたばかりの人も多いでしょう。「年2%の物価上昇が続けば預貯金の価値はそれだけ減少する」と言われて株式投資を始めたら、日本株は1日に12%も下落するなんて……。「聞いてないよ!」と叫びたくなりますよね。
でも、実は投資とはそういうものです。「投資にはリスクがあります」という時の「リスク」はブレ幅を意味します。下落だけでなく上昇する場合も同様にリスクです。それだけ値動きのあるものだからこそ、リターンも期待できる。リスクとリターンは表裏一体です。まあ、さすがに今回のブレは大きすぎた感はありますが。
個人はリスクのある投資と、どう向き合えばいいのでしょう?
自分でコントロールできるものをコントロールすればいいのです。国際政治?金融政策?為替相場?企業業績?……コントロールできませんよね。自分が決めることができるのは投資期間、投資金額、投資方法です。
まず投資期間。今は損失を抱えていても、売らない限り実現損ではありません。あくまで架空の数字と割り切る。これはプロには許されない個人投資家ならでは必殺技です。四半期ごとの運用成績やキャッシュ化を要求する資金の出し手から追い立てられることなく、自分で自分のゴールを設定できます。
下げ続ける相場はありません。やがて揺れが収まれば、一日も歩みを止めることのない世界の経済活動の中で株価は企業業績に収束してきます。長期投資に徹すれば、生み出された利息が元本に組み込まれ雪だるまのように大きくなる「複利効果」も大きくなります。
「長期投資なんかしている時間はない」と思うシニアの方もいるかもしれません。その場合、お子さん、お孫さんにバトンを渡すつもりで投資してはどうでしょう。もともと「資を投げる」先は企業、そしてその先の社会です。すぐに自分で使う予定のないお金を必要としている人がいるならば、と用立てすることでお金が働いて将来大きくなってかえってくる――それが投資の本質です。残したい子どもや親族がいなければ、それこそ遺贈など対象を広げて考えることも自然です。
そして同時に投資額はどのくらいか、例え半額に減っても慌てない、生活に響かない額はいくらか、自問自答します。さらに投資法。一括投資よりも積み立て投資がおすすめです。一度に多額を投じれば、その後は値動きに一喜一憂することになりますが、投資額の方を固定して定期的に投じる積み立てであれば、下げ局面では勝手に買える量が増えることで結果的に平均取得単価が引き下げられます。
下げる株価を見ながら「シメシメ、安く仕入れられている」と思うことができればこっちのもの。心の安寧が保てます。投資との賢い距離感を持てる自分なりのルールを見つけたいですね。