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日本経済新聞編集委員 宮内禎一「万博で「いのち」について考える」

「万博で「いのち」について考える」

 2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の開幕まで1年を切った。建設現場では世界最大級の木造建築物である大屋根(リング)の建設が8割まで進み、企業や参加国のパビリオンも少しずつ姿を現し始めている。

  万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」。テーマに沿って、8人のプロデューサーが工夫をこらしたパビリオンを1つずつ建設する。会場の中心に位置するこれら8つのパビリオンが今回の万博の一つの目玉といえる。    

 8人は映画監督の河瀬直美氏、放送作家の小山薫堂氏、メディアアーティストの落合陽一氏ら多士済々。テーマを各自の哲学から語る「署名作品」として「シグネチャーパビリオン」とも呼ばれる、来訪者が「いのち」について考える場となる。8人が個性を発揮し、同じ方向を向いていないのが面白い。

  ロボット工学者である大阪大学の石黒浩教授は「どんどん機械化を進めていくのがわれわれの自然な生命の拡張の方向。必ずしも2本の手、2本の足でなくてもよい時代が来るかもしれない」とし、「カメラマンなら手が4本あれば便利でしょう」と笑う。

 そのうえで「この先の50年は技術や医学の力で人間の定義そのものを広げていくかどうかが大事な時代になる。万博をそうした議論の場にしたい」と意気込む。

 石黒パビリオンのテーマは「いのちを拡(ひろ)げる」。50年後の暮らしを想定したAI搭載のロボットを披露するほか、1000年後の未来を象徴する超人的アンドロイドの開発も進める。人間とロボットの共存について考えるきっかけにする。

  一方、生物学者の福岡伸一氏は新型コロナウイルス禍について「『ロゴス』と『ピュシス』の相克」ととらえる。ロゴスは言葉やロジック、技術。ピュシスは生命本来のあり方。人間はロゴスを生み出し遺伝子の命令「産めよ増やせよ」から自由になれたが、あまりにロゴス偏重となった現代社会に、ピュシスが不意打ちしたと説明する。

 「コロナ禍がAI(人工知能)万能社会などは行き過ぎだと教えてくれた。AIやデータサイエンスによる未来デザインに対抗軸を打ち出すのが私の役割。技術で生命の自由を管理することに危惧を覚える」と、石黒氏とはまったく違った考えを示す。

  福岡パビリオンのテーマは「いのちを知る」。来訪者の生命観を根底からやさしく揺さぶり、生きること・死ぬことの意味と希望を再発見する体験を届けるという。

 ほかにも、廃校舎を移築する河瀬パビリオンでは初めて出会う人と対話するシアターを設けるなど、プロデューサーの個性の競演となる。

 インターネットの普及から最近の生成AIの登場まで、社会や生活が激変する現代。万博は各プロデューサーが提示する様々な「いのち」の発想に触れて、自分なりに考えを深める面白い機会になるのではないか。

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