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日本経済新聞マネー報道グループ長 手塚 愛実「相続土地の管理に困ったら 国の引受制度が始まる」

「相続土地の管理に困ったら 国の引受制度が始まる」

 「竜馬がゆく」「坂の上の雲」など数々の作品を残した希代の歴史小説家、司馬遼太郎氏。2023年の今年は司馬氏の生誕100年にあたります。生前、彼の持論の一つが「土地の公有化」だったのをご存じでしょうか。  
 1976年刊行の「土地と日本人」(中央公論社)という対談集に興味深いやりとりがあります。作家、野坂昭如氏との対談では「日本は土地を公有にしなきゃどうしようもないと思う。農業問題もなにも解決しないと思うね」(司馬氏)、松下電器産業(現・パナソニック)創業者の松下幸之助氏との対談では、「水とか空気とかが公有なように、土地も公有であるべきですね」と司馬氏がいうと、「私有制を認めても、土地の本質は公有物であるという認識に立たんといかん」と松下氏は一歩、引きながらも基本的認識は同じであることを打ち明けています。  
 土地が投機の対象になってちぎり売りされ、人民の生活が左右されている状況に、「人心が荒らされる」と司馬氏は強い問題意識をもっていました。  
 日本はその後、バブル期に突入し土地の高騰で相続人が相続税を捻出するため、泣く泣く住んでいた土地と家屋を手放した、という話しも頻繁に聞かれました。土地は未来永劫価格が上がっていくという幻想のもと、土地を担保に信用が膨張する「土地本位主義」は1990年代前半、バブル崩壊とともに崩れ去りました。                        ◇ ◇ ◇                                          
 なぜ司馬氏のことを思い出したかといいますと今年4月27日、相続土地を巡る新しい制度「相続土地国庫帰属制度」が始まるからです。  
 親から土地と家を相続したものの、自分も兄弟も住むつもりはない、かといって買い手が見つかるような土地でもないという場合、条件を満せば国が土地を引き取ってくれるというのが制度の概要です。  
 ただし、国に引き取ってもらうためのハードルは高く「建物がある」「担保権などが設定されている」「隣人と訴訟になっている」「地割れや陥没がある」「勾配が30度以上・高さ5メートル以上の崖がある」――このような土地は対象外となります。  
 法務局に利用を申請すると、申請する段階、さらにその後と2段階にわたって法務局の審査を受け、承認されれば10年分の土地管理費相当額の「負担金」を納付して、初めて、土地が国庫に帰属するという流れです。  
 負担金もあるうえ、建物を解体する必要があるなど、決して使い勝手のいい制度とはいえませんが、相続した実家を住むこともなく、売却することもできずに空き家として所有し続ければ、固定資産税や水道光熱費などが永遠にかかり続けます。さらに、土地が管理されないまま放置されれば、将来「所有者不明土地」が発生してしまう可能性があります。  
 制度が複雑なため、利用を検討したいという人は、まず法務局で相談してみるといいでしょう。  
 国がこのような制度を始める背景には、「所有者不明土地」への危機感があります。国土交通省の調査によると、全国の24%の土地が所有者不明のまま放置さているとのこと。長い間、土地の相続登記が義務化されていなかったため、相続が発生するたびに誰が相続したのかが明確化されず、もはや戸籍をたどることも難しくなってしまったのです。所有者がわからない土地はこれ以上、増やさないという国の強い意志のもと、来春からは、この相続登記も義務化されることが決まっています。                        
                       ◇ ◇ ◇                     
 司馬氏が「土地の公有化」を訴えた1970年代から半世紀が過ぎました。
日本は人口減少社会に突入し、所有者のわからない土地が虫食いのようにところどころ放置され、それが周囲の環境に悪影響を与えたり、災害対策上の問題を残したりしています。  
 土地の公有化は無理としても、地元住民や自治体やNPO、最終手段として国が放置された土地の活用について知恵を絞ることが大事でしょう。「われわれが日本人として日本列島を共有する」という司馬氏の発想を思い返し、思いを強くしています。

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少子高齢化により土地の相続の問題はこれからますます増えていくことでしょう。 自分たち家族だけの問題と捉えずに、日本人として土地をどう生かしていくか考える時代がきたのかもしれません。
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