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地域社会日本経済新聞マネー報道グループ長 手塚 愛実「富裕層に逆風? 2023年度税制改正のポイント」
政府・与党がまとめた2023年度の「税制改正大綱」には、相続や贈与についていくつか大きな制度改正が盛り込まれました。富裕層を中心に、相続税の節税策の練り直しを迫る内容です。今回はそのポイントを解説したいと思います。
まずは、相続財産に加算する生前贈与を、相続開始前3年から7年へ段階的に延ばしていくことが決まりました。富裕層は生前に財産を家族に贈与して、相続時に課税される財産を減らす節税策をとるのが一般的です。その代表的な方法が「暦年贈与」で、1人につき年110万円の基礎控除の範囲内の贈与なら贈与税が課税されません。
仮に5人の相続人に毎年100万円を10年間贈与すれば、5000万円の財産を非課税で子や孫に渡すことができる計算です。
現行では相続開始前の3年間の贈与については相続財産に加算されることになっていますが、この期間を7年に延長しようという改正内容です。2027年の相続開始分から段階的に延びていき、2031年の相続開始分から7年になります。つまり、2024年1月以降の贈与に影響が出る可能性があります。ちなみに、加算する金額のうち4年前~7年前の合計から100万円を引きます。
もし子や孫への生前贈与を計画しているなら、早めに着手する、もしくは自身がより長生きをすることが必要になるといえるでしょう。
もうひとつ、暦年贈与とは別の贈与に「相続時精算課税」というものがあります。60歳以上の親や祖父母が成人した子どもや孫に贈与するときに使える仕組みです。何年かけて、何回贈与しても、総額が2500万円までであれば贈与税は課税されません。ただし、課税の先送りであり、相続発生時には贈与した財産の贈与時点での価額と他の相続財産を合計して、相続税が課税されます。
贈与の時点でどちらかの方法を選択する必要があり、この相続時精算課税をいったん選ぶと、同じ人からの贈与については暦年贈与を選べなくなります。この点や手続きが煩雑なことなどが敬遠され、これまで利用者は暦年贈与の12分の1程度にとどまっていました。
2024年からは、いまより相続時精算課税が使いやすくなります。年間110万円以下の贈与であれば、相続時精算課税でも申告不要となり、相続財産にも加算されなくなります。つまり、2500万円の枠とは別に、毎年110万円の「非課税贈与枠」ができることを意味します。
そのほか、教育資金の非課税一括贈与は2026年3月末まで延長されます。ただし、相続財産が一定の規模(5億円)を超える相続の場合は、贈与を受けた人の年齢にかかわらず、使い残した分が相続税の課税対象になるよう変更されるなど、やはり富裕層には少々厳しい内容となりました。
さらに、マンションなどの不動産を活用した過度な節税策が今より難しくなるような方針も明示されました。国税庁は2023年に有識者会議を設置して、相続税評価額を適正な水準に引き上げるルールの見直しを検討します。
このように富裕層にとっては明らかに課税強化となる方向性です。相続税対策はこれまで以上に、早めにかつ計画的に取り組む必要性が高まったといえるでしょう。