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日本経済新聞編集委員 宮内禎一「仮想未来人になって考えてみる」

「仮想未来人になって考えてみる」

 長期化する新型コロナウイルス禍や、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が象徴する東西冷戦の再来危機――見通しにくくなっている将来に、どう対処すればよいのか。「過去に学び、未来から考える」ことをお勧めしたい。

 人間は物事を自身に都合よく解釈する「楽観バイアス」が働き、なるべく目先の負担を減らしてコストが低い対策を選択しがち。どうしても将来世代の負担は大きくなる。そこで、アメリカ先住民のイロコイ諸族は7世代後の子孫になりきって様々な意思決定をしたという。

 こうした将来世代の視点を取り入れて環境計画やインフラ整備、企業経営などを考える「フューチャー・デザイン(FD)」を導入する地方自治体や企業が増えている。たとえば岩手県の矢巾町。50年後をにらんだ地方創生プランの作成にあたって、町民を現世代と仮想将来世代のグループに分けて議論した。

 交通のあり方一つをとっても両グループの提案は驚くほど異なった。現世代はコミュニティバスの利用率向上といった目先の課題を解決するビジョンを示したが、仮想将来世代のグループはクルマが空を飛び、家庭ではロボットが健康管理をするというところから未来の交通を描いた。子ども医療費の無料化についても現世代は賛成したのに、将来世代は持続可能性の観点から反対した。

 われわれは通常、目の前の問題を解決するため制約を排除する『フォーキャスト思考』に立つが、仮想将来世代の視点は将来の制約を避けられぬ前提と受け入れて解決法を探る『バックキャスト思考』になる。環境問題を例に取ると、前者は省エネ・節水など「我慢」を解決法とするが、後者は地球環境の制約を前提に心豊かなライフスタイルを描く。

 バックキャスト思考に立つフューチャー・デザインは、町内の問題や家庭の将来を考えることにも応用できる。たとえば10年後あるいは20年後の自分と家族、社会の姿を思い描いて、今やるべきこと、○年後にやるべきことを考える。自動運転の車が普及しているかもしれないし、遠隔医療が一般化しているかもしれない。

 もう一つは過去の知恵の活用だ。東北大学の石田秀輝名誉教授のグループは、環境負荷が低く持続可能だった戦前の暮らしを知る全国の90歳前後の600人以上を聞き取り調査した。その結果、「自然に寄り添って暮らす」「何でも手作りする」「分け合う気持ち」「みんなが役割を持つ」など、44の生活原理が日本文化を形成していたことがわかったという。

 特に都会ではそれらが失われてきたが、「自立やシェアという新しいライフスタイルとしてよみがえってきている」と、石田名誉教授はみる。

 仮想未来人となって地域や家庭の将来を考える。そして過去の人々の知恵も活用する。ウェルビーイング(well-being、心身と社会の幸福・健康)が重視される時代に、ふさわしい姿勢だと思う。

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