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あんしんステージ法務・福祉事務所 代表 塩原 匡浩「自筆証書遺言書保管制度」緊急レポート

「自筆証書遺言書保管制度」緊急レポート

 前回コラムで予告した「自筆証書遺言書保管制度」をさっそく体験してきました。今回はその手続きの要点を抑えながら、読者のみなさまが読んですぐに役立つ実体験をレポートしてみたいと思います。なお手続き詳細等については法務省のHPをご確認下さい。

1.事前準備について【4項目】

(1)予約する

 今回の「自筆証書遺言書保管制度」を行うには、電話もしくはネットにて事前予約しましょう。私は予約サイトが開設された7月1日に予約し、数日後に法務省から確認メールがありました。なお遺言者が保管申請予約できるのは、

①住民票のある管轄法務局、②本籍地のある管轄法務局、③所有する不動産の所在地を管轄する法務局 のいずれかです。

(2)住民票を取得する 

 取得後3箇月以内の本籍地の記載ある住民票を1通用意します。住民票はコピー可です。

(3)遺言書の保管申請書の作成

 遺言書の保管申請書は法務省HPからダウンロードするか、法務局(遺言書保管所)の窓口にも備え付けられているので事前に入手して、申請日前日までに作成しておくことをお勧めします。

遺言書保管証その3 2020.7.12.JPG

(4)「自筆証書遺言書」の作成

 「自筆証書遺言書」を準備しましょう。以前作成した事のある方も、その後の環境変化に合わせて新たに作成する事をお勧めします。最近私の周りでも社会貢献を目的として、遺贈について書かれる方も増えてきています。私は「9マス遺言」形式で作成しましたが、結果としてとてもシンプルな「遺言書」となりました。法的効力のある「本文」には必要最小限の事項を記載し、自らの想いを載せた言葉を書いた「付言」には大切な人への想いや自らの生き様、そして自分の思いの丈を情熱込めてしたためました。書き進めるにつれてまるでクロスワードパズルを解いているかの様な楽しさがあり、ある種のトランス状態となって一気に書きあげる事が出来ました。改めて「9マス遺言」はとても簡単に取り組める遺言形式であり、特に「付言」を書くことに適していると感じます。また「遺言書」には財産目録を添付する事が出来ますが、従来の様に全てを自書する事なく、自書によらない財産目録として①不動産登記簿謄本(コピー可)、②銀行通帳見開き2頁目等必要情報記載ある頁(コピー可)等々の資料添付が可能となっています。

2.申請当日レポート【提出書類5点】

 まず大切な事は保管申請手続きには、遺言者本人による法務局への申請が必要であり、代理人が行うことが出来ないという点です。私は東京法務局(九段第2合同庁舎8階)にて16時からの予約でしたが、15時45分には窓口にて受付を開始して頂きました。遺言書保管室には総合受付窓口と間仕切りされた個別ブースが幾つか並んでいました。職員は約10名程度、受付で待っている遺言者(依頼者・申請者)と思しき人は男性ばかり5名でした。まずは以下の提出書類5点を提出しました。①「自筆証書遺言書」(「9マス遺言」)、②遺言書の保管申請書、③住民票(本籍地記載のあるもの)、④本人確認書類(マイナンバーカード・運転免許証・パスポート等顔写真付証明書の有効期限の中の1点)、⑤手数料3,900円(法務局等にて収入印紙購入)です。窓口で書類と引き換えに18番という数字の入ったカードを渡されてしばらく待つように指示されました。途中で2度呼ばれ、はじめは住民票のコピーに「原本に相違ない」とゴム印が押されたものに氏名を自署しました。二度目は申請書の各頁右下に自ら頁ナンバーを記入するように指示されたこと及び、自書によらない財産目録に関して署名押印し、各頁右下に自ら頁ナンバーを記入したことでした。その後待つこと約50分で審査が終了し、「保管証」を受領し、最後に簡単なアンケート用紙を渡され回答後に一連の手続きが全て完了しました。

 ちなみに今回「9マス遺言」を選択したことで遺言書保管官から何らかの質問があるかも知れないと思って準備していましたが、結論としては遺言形式に関しては何らの指摘はありませんでした。「9マス遺言」が法的に有効である根拠は、法務省HPに「自筆証書遺言書保管制度」についてのQAの質問例2として、「遺言書の様式について用紙に模様があるのですが申請可能ですか?」の回答として、「その模様が文字の判読に支障のないものであれば申請可能です」とあったこと。また判例に、「遺言者が自筆証書遺言中に第三者作成の図面を用いても全文自書の方式を欠くものではないとされた事例(札幌高決平14426家月541054)」があることからも、法的効力あることが明らかとなっています。

3.「自筆証書遺言書保管制度」のメリットと懸案事項について

 今回の「自筆証書遺言書保管制度」を行うメリットは幾つかありますが、家庭裁判所「検認」手続きが不要になる点、原本は死後50年、スキャナーで読み込んだ画像データは150年保存される点等があります。しかしその中でも大きなメリットのひとつは、『死亡時の通知』制度が追加された事です。これは「自筆証書遺言書保管制度」を活用した遺言者が死亡した場合、生前に指定した推定相続人・遺贈者等・遺言執行者等の内のひとりに対して相続発生をお知らせするもので、今までありそうでなかった画期的な制度です。まさにこの点において、遺言新制度に魂を吹き込みたいという法務省の矜持を感じます。公正証書遺言書には『死亡時の通知』制度がない為に、相続人が遺言書の存在を知らぬまま相続手続きが進められてしまう可能性があり、相続人が複数存在する場合等に公平性に欠けることは否定できませんが、その点「自筆証書遺言書保管制度」に『死亡時の通知』制度が追加されたということは、公正証書遺言に比較して、明らかに特筆すべき差別化になる可能性が高いと思います。それ迄も「関係遺言書保管通知」制度として、遺言者の死亡後関係相続人等がその遺言書を閲覧及び遺言書情報証明書の交付を受けた際、関係相続人等に対して遺言書が保管されている旨を通知する制度は予定されていましたが、『死亡時の通知』制度については最近概要が明らかになりました。法務省HPにも『死亡時の通知』について、「令和3年度以降頃から本格的に運用を開始する」とあります。東京法務局に行った際に遺言書登記官にその根拠条文を直接確認すると、「遺言書保管事務取扱手続準則が5月11日に通達として出され、その第19条が該当します」(法務省民商第97号令和2年5月11日通達)との回答を得ました。この点からも法務省がこの「自筆証書遺言書保管制度」に対して、並々ならぬ情熱を傾けた事が感じられ、まさに「使える制度」「これからの我々に必要な制度」であると感じ入った次第です。

 一方「自筆証書遺言書保管制度」で懸念される点は、提出された「遺言書」の法的効力が担保されない事です。「自筆証書遺言書保管制度」は、読んで字のごとく自筆証書遺言書を保管する為の制度であり、自筆証書遺言書の内容の正確性及び遺言者の遺言能力を担保するものではなく、これらの点に関して後日紛争が生じる可能性は否定できません。遺言書保管所にて預かる際の確認は、①遺言書が民法第968条の定める方式に適合しているかの外形的な確認、②遺言書を自署したかどうかの確認であり、法務省HPにも「遺言書保管所においては、遺言の内容についての質問・相談には応じる事ができません」ともあります。一方公正証書遺言は、法律専門職である公証人により公正証書遺言作成過程において法的効力が担保されるために、この点において明らかに公正証書遺言に劣る可能性があります。そのため「自筆証書遺言書保管制度」を活用する際にその懸案事項を払拭するには、弁護士・司法書士・行政書士等法律の専門家による作成支援を受けることが望ましいと思われます。

4.コロナ禍のいま、未来の「遺言制度」に想いを馳せる

 NHKのニュースで、森法務大臣が遺言書に「電子媒体導入も検討の余地」があると発言したとの報道がありました。森法務大臣は閣議のあとの記者会見で、自分で作成する遺言書では財産の目録以外は手書きにする必要があることについて「電子媒体による遺言が認められると、自筆で遺言書を書くことが困難な方が作成する場合の選択肢が増えメリットがある。最新技術の活用などによって、遺言書が本人の真意により作成されたものであることが担保されるなどの条件が整えば、「電子媒体」導入を検討する余地がある」と述べたそうです。森法務大臣のこの発言は、「自筆証書遺言」という名称を死語にする可能性はあるものの、「遺言」もまた時代の流れに応じて、そのカタチを変えて進化してゆくと言うことなのかも知れないと感じます。

 街を見渡せば未だコロナ禍を脱したとはとても言い難い状況です。コロナ禍における過ごし方は人それぞれですが、「漠然とした不安を感じる」と言うのがみなに共通した想いなのではないでしょうか。「これからコロナ第二波が来るかもしれないし、最近の豪雨災害をはじめとした自然災害も尋常ではない」等の不安が心の奥底にあります。まさにそんなタイミングで「自筆証書遺言書保管制度」がスタートしたのです。いままで遺言書を他人事と敬遠してきた人には、年齢や財産の多寡に関わりなく自らの内を省みて「遺言書は自分ごと」と、前向きに捉えてみる良い機会なのではないでしょうか。日本人がコロナ禍を乗り越えるべく、新たな生活様式(ニューノーマル)への変化が求められつつある生活の中で、これからますます存在意義が高まるであろう「遺言書」の更なる進化に期待したいと思います。                                          

※1.法務省総合サイト「法務局における自筆証書遺言書保管制度について」

http://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html

※2.法務省予約サイト

http://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00010.html

※3.法務省HP「自筆証書遺言書保管制度における通知について」

http://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00012.html

日本財団が提唱する、遺贈という名の選択

コロナ禍のためでしょうか、このところご自分の行く末について考えるようになった、と、遺言書をしたためるご相談が増えてきたようです。どなたも遺言書の作成のために、自分の人生を振り返り人生の棚卸しをし、自分の思いを遺言書に遺されます。このたびの「自筆遺言書保管制度」は、遺言書であなたの「思い」を未来に繋ぐことを促してくれる貴重な機会です。この制度を有効に活用するためには、正しく遺言書を書いておくことが必要です。

日本財団遺贈寄付サポートセンターでは、遺言書であなたの財産を未来のために遺したい、遺贈をしたいと考える方のご相談をお受けしています。お問い合わせ、資料請求はHPのお問い合わせ欄からどうぞ。お待ちしております。

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