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老後あんしんステージ法務・福祉事務所 代表 塩原 匡浩遺言書を拒んだ梅宮辰夫を包んだ家族の愛
いま「遺言」に追い風が吹いている。未だ先の見えないコロナ禍の中で、多くの人々が自らの来し方行く末に想いを馳せ、大切な人のために「遺言」というカタチに想いをしたためているのかも知れない。また今年の7月10日から法務省主導で始まった、「自筆証書遺言書保管制度」の便利さに多くの方が気づきはじめ、その認知度が徐々に高まっているのかも知れない。いずれにしても日本に「遺言」の制度を根づかせることに使命感を感じて日々活動している私にとって、この時代の潮流は万感胸に迫るものがあります。
しかし「遺言」を取り巻く現実に目を注ぐと、遺言する遺言者と家族の間にはいまだに様々な温度差があるように思います。今回は特に「遺言書」がない中で相続手続きを行ったひとつの事例として、故梅宮辰夫さんのケースを公開されている情報をもとに可能な範囲で考察してゆきたいと思います。
気さくな人柄で日本中から愛された銀幕のスター梅宮辰夫さんが逝去されたのは、2019年12月12日のことでした。速報では「慢性腎不全のため、神奈川県内の病院で死去。81歳。」と報道されました。最近になって娘の梅宮アンナさんの相続体験に関するコメントが紙面を賑わせるようになりました。きっと相続発生から約8箇月が経過して、相続手続きがひと段落したからなのかも知れません。梅宮辰夫さん亡き後に梅宮家の状況が垣間見れる部分を、女性セブン2020年7月9日号より一部引用してみます。
〔以下引用文〕
男らしく、家族思いの辰夫さんだったが、「終活」の場面では違った。娘のアンナ(47才)が振り返る。
「父は自分が死ぬことを想像するのが嫌だったんでしょうね。昨年の夏頃に私が、『言いにくいけど、ある程度のお金をママか私の口座に移してほしい』と相談しても、自分のお金を奪われると思ったみたいで、『あげない』の一点張り。元気な頃の父なら家族が困らないよう配慮してくれたはずだけど、病気は人を変えてしまうんです。そのせいで、顔を合わせるたび、けんかになっていました」(アンナ・以下同)。
辰夫さんの妻のクラウディアさんは、「何かあったら困るから、遺言書を書いておいて」と常々お願いしていた。辰夫さんは「わかった」と返事をして、筆を走らせた。「朝からずっと書き物をしているので、てっきり遺言書を書いているものだと思ったら、お料理のレシピ本を書いていたんです。目次まで作る凝りようで、その細かさには驚かされました(笑い)」。
結局、辰夫さんが「遺言書」を残すことはなかった。不動産や預金通帳など、梅宮家の資産はすべて辰夫さんの名義だったため、葬儀が終わるとアンナは「書類地獄」に奔走することになる。「父の預金口座は、死後1週間で凍結されていました。母は憔悴しきっていたので、私がひとりで役所や銀行を駆けずり回るしかなかった。たとえば父の携帯電話を解約するだけでも、除籍の証明書や親子関係を証明する書類が必要なんです。住民票や戸籍の書類を取りに、50回は区役所へ行きましたよ」大変だけど楽しい時間だった。
1つだけ、辰夫さんが生前に準備しておいたことがある。莫大な相続税の負担を減らすため、アンナの娘の百々果ちゃん(18才)を5年前に辰夫さんの養子にしていたのだ。ただ、相続は身近にいる家族だけの問題ではないことが、死後になって身に染みたという。「法定相続人となる人がほかにいないか確認するため、生まれてから亡くなるまで父のすべての戸籍をさかのぼる必要があったんです。この作業がいちばん大変でした。ラッキーなことに、うちはNHKの『ファミリーヒストリー』に出演したことがあったので、NHKのスタッフのかたに教えてもらって父の人生をたどることができました。もう半年以上作業を続けてきて、やっと終わりが見えてきたところです」
生前にそうした問題を整理し、遺言書にしっかり書き留めていれば遺産整理は格段に楽になる。だが、父の死後の手続きに振り回されたアンナは、意外な思いを語る。「もちろん、遺言書があれば困らずに済むこともあります。ですが、私の場合はなくてよかった。遺言書があったら、淡々と指示に従うだけで、こんなに父のことを考えなかったかもしれないし、おもしろくなかったと思うんです。遺産や遺品の整理をしながら、『パパはどうすれば喜んでくれるだろう』って考える時間は、すごく大変だけど、楽しい時間でもあるんです」(アンナ・以下同)
辰夫さんの終の住み処となった真鶴の家も、アンナの心を変えた。「父とけんかばかりした真鶴の家が私は嫌いで、すぐに売るつもりでした。でも、新型コロナによる外出自粛期間を真鶴の家で過ごしていたら、窓の外には海も山も見えるし、真鶴の自然が心地よくなって。父は、この景色が好きだったんだなってわかったんです。天国で、『おまえ、気づくのが遅いよ』って言っているかもしれませんね」
たとえ遺言書があっても、親と子供の思いが一致しなければ、トラブルは起こってしまう。一方で、梅宮家のように、何も残されていなくても自然と気持ちが寄り添う場合もある。結局のところ、親子の絆がものを言うのかもしれない。(女性セブン2020年7月9日号 梅宮アンナ 父・辰夫さんの遺言書が「なくてよかった」と語る理由より一部引用)
梅宮家の人生模様には様々なストーリーがありましたが、その根底には家族がお互いを思いやる愛があり、そのひとり一人の顔が浮かぶと同時にほのぼのとした幸せな気持ちにさせられるのは、きっと私だけではないでしょう。この梅宮家の相続ストーリーを読んで、あなたはどう感じられるでしょうか?意外にも自分や自分の家族に当てはまることがいくつもあるのではないでしょうか。普段から「遺言」の大切さを公言している私にとって、梅宮家での出来事は逆説的にとても魅力的に映りました。なぜならテレビ電波を通して我々が見ていた梅宮辰夫さんは死を恐れぬナイスガイで、全てのことにそつがないと見えていたからです。そして自分の死後にも家族に対して包容力を発揮して、「俺が死んだらこの遺言書の通りにすれば大丈夫だからな。心配すんな。」と言ってくれそうなイメージを勝手に持っていましたが、実際には違いました。報道では30代の頃から複数のガンと共存してきた梅宮辰夫さんは、決して急死したわけではなく様々に想いを巡らせる時間が充分あったと思います。いや、時間があったがゆえに自らの信念で「遺言」を書かなかったとも言えるのかもしれません。人の考え方は千差万別であり、「遺言」が如何にあなたの人生にとって有意義なツールであろうと、遺贈や寄付を検討するなど「遺言」の効力を活用する場合を除いて、家族への「遺言」を遺すことを決して強要することは出来ないのだと再認識しました。それは「遺言」が遺言者の意思のみに基づいて作成されるものだからです。そして亡き父梅宮辰夫さんの大きな愛に身をゆだね、『パパはどうすれば喜んでくれるだろう?』と在りし日の父の考え方に思いを巡らせて、粛々と相続手続きを実施した梅宮アンナさんはとても立派だと思うのです。これらの梅宮家での相続手続きプロセスのやり取りから見えてきたのは以下の5点です。
【梅宮家相続のポイント5点】
1. 梅宮辰夫さんには「遺言書」がなかった。というより「遺言書」を書くことを拒んだ。
2. 梅宮辰夫さんの法定相続人は、本来は配偶者のクラウディアさんとアンナさんの2人であったが、梅宮アンナの娘の百々果さん(18才)を5年前に梅宮辰夫さんの養子とし、法定相続人は3人となった。法定相続人が増えると相続税控除額が増えるので相続対策として有効である。
3. 梅宮辰夫さんの相続手続きで一番大変だったのは、梅宮辰夫(被相続人)さんの法定相続人が上記3名以外にいないことを確認する作業〔法定相続人の確定〕であった。
4. 相続手続きを実際に行った梅宮アンナさんにとって、『パパはどうすれば喜んでくれるだろう?』と考える時間は、すごく大変な一方で実際にはとても楽しい時間であった。
5. 「遺言書」がある場合でも親(遺言者)と子供等(法定相続人)の思いが一致しなければ、トラブルが起きる可能性がある。しかし今回の梅宮家のケースの様に親子の絆があれば、「遺言書」が遺されていなくても自然と気持ちが寄り添う場合もある。
私は常日頃「遺言の伝道師」として、遺言者や家族の複雑な気持ちを受け止めながらも、「まだお元気で遺言能力(遺言を作成し得る意思能力)のあるうちに、あなたが出来ることをすべきですよ。遺言がある場合とない場合では、全く結果が異なることもあり得るのです。」と多くの方々にアドバイスして来ました。今回の梅宮家のケースでは、確かに「遺言書」はありませんでした。家族に再三にわたって求められたとしても、「遺言」を書かなかった梅宮辰夫さんの気持ちもわかります。しかし実際に様々な相続のあり方を見てきた私にとって、今回の事例はあくまでレアケースであると言うことが出来ます。円満な相続のためには、あくまで「遺言」ファーストなのです。これをお読みのあなたに、「いまの私は『遺言』に背を向けていないだろうか?『遺言』がなかった場合、遺された家族は一体どうなるのだろいうか?」と自問する切っ掛けとして頂きたいと思います。
日本財団が提唱する、遺贈という名の選択
最近、家にいる時間が長くなったことから、終活の一環として遺言書をしたためるご相談が増えてきたようです。自分の人生を振り返り人生の棚卸しをし、自分の思いを遺言書に託すのですが、落ち着いてゆっくり考えるいい機会になっているとも言えましょう。
日本財団遺贈寄付サポートセンターでは、遺言書であなたの財産を未来のために遺したい、遺贈をしたいと考える方のご相談をお受けしています。お問い合わせ、資料請求はHPのお問い合わせ欄からどうぞ。お待ちしております。