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日本経済新聞編集委員 山口 聡「公的年金は〝抑えの切り札〟」

「公的年金は〝抑えの切り札〟」

 以前、この欄で「厚生年金などの公的年金はそう簡単には破綻しない」という趣旨の文章を書いた。日本経済がわずかでも成長を続けていれば、この先も年金は意外に安定して支給される。

 ただし、先に行くほど今現在やかつての高齢者ほど恵まれた年金ではなくなる。それは高齢者の人数がどんどん増えていく社会においてはある程度仕方のないことだといえる。

 ならば、やっぱり不安ではないか。老後に備えてなるべく多くの資産を持っておかなければ。遺贈寄付といっても、最後には寄付するほど残らないかも。。。などと考えてしまいがちだが、そんなに資産に頼らなくても生活していけるだろう一つのスタイルが一部の専門家たちの間で注目されている。

 このスタイルを野球の投手でたとえる。これまでは60~65歳以降を標準的な老後とし、そこから死ぬまでを公的年金に頼る人が多かった。人によっては公的年金だけでなく、企業年金を加えたり、貯蓄を取り崩したり、場合によっては働いて得た賃金をプラスした。補強はあったにしても基本的に柱はずっと公的年金だ。このスタイルは公的年金の「先発完投型」といえる。

 これに対し、新たな考え方では老後の糧を得る方法を「先発」「中継ぎ」「抑え」に分ける。「先発」は働くことだ。今や65歳まで働くことは普通になってきた。さらに企業は従業員が70歳まで働けるように努力する義務を負う。こんな時代なのだから、65歳を過ぎても可能な限りフルに働き、その賃金で暮らすようにする。

 とはいえ、そういつまでもフルに働けるものでもない。数年間でリタイアもあり得る。すると、ここで「中継ぎ」が登場する。企業年金や個人で加入した年金保険などが該当する。これらは自分で受け取り方を決められる場合も多い。一時金で受け取るとか、数年間は年金で受け取るなどが選べる。貯蓄を取り崩すといったことも中継ぎに含まれるだろう。とにかく私的な資産を期間限定で活用する。

 そして最後に「抑え」の公的年金が登場する。公的年金は基本的には65歳からの支給だが、これを遅らせて受け取るようにすれば額が増える仕組みになっている。今は70歳まで遅らせることができるが、2022年4月からは75歳まで遅らせることが可能になる。75歳から受け取るようにすれば65歳から受け取るときに比べて金額が約1・8倍にもなる。年金が先細りしても、この仕組みを使えばその分を補って余りあるほど増やすことも可能なのだ。仮に65歳からなら月15万円だった年金が月約27万円にもなる。何よりも心強いのは公的年金が終身年金だということだ。亡くなるまで増えた額が支給され続ける。

《年金を65歳以降に繰り下げて受け取った場合の増額率》

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 おさらいしよう。まずできるだけ長く、できれば70歳ぐらいまで働く(先発)。それからは、できれば75歳頃まで企業年金・私的年金、貯蓄などで暮らす(中継ぎ)、そして最終的に受け取りを遅らせたことで大幅に増えた公的年金で賄う(抑え)というわけだ。だれもがこれでうまくいくとは限らないが、人生100年と言われても、なんとかなりそうな気がしないだろうか。

 公的年金の受け取りを遅らせる場合、「早く死んでしまったら損」と考える人がいるだろうが、専門家は「公的年金は年を取ったり、障害を負ったりして、自分で稼げなくなったときの保険制度であることを思い出してほしい」と訴える。掛け金を積み立てておく制度ではないのだから、本当は損得で考えるべきものではない。自分の力だけで相当な年齢まで暮らし、公的年金を受け取ったのは最後のほんの数年だったとしても、それは決して損な人生などではなく、立派な人生だったといえるのではいだろうか。

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