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終活立教大学社会デザイン研究所 星野 哲終活万華鏡 -5 -
遺産相続というと、なんとなくお金持ちのものという印象を持つ人が多いようです。でも、実はそんなことはありません。住む家ぐらいしか財産がなくても、いやそれだからこそ、相続に気を配らないと遺された家族が争う「争族」に発展しかねません。
「仲のよいうちの家族に限ってそれはない」と信じられることは素敵ですが、実際にはその仲を引き裂きかねないのが遺産相続の怖いところです。
裁判所での遺産分割事件数、つまり相続人同士では折り合いがつかず、家庭裁判所の調停や審判などに至ったケースは増える傾向にあります。司法統計によると、この10年で2割近く増え、2019年度には1万2785件に達しました。
調停などが成立した7224件の内訳をみると、遺産総額が5000万円以下のケースが実に76.8%を占めています。1000万円以下のケースに限っても33.9%にものぼります。つまり遺産がそれほど多くないからこそトラブルになりかねないことがみえてきます。特に不動産がメインの財産の場合には分割しにくさもあって、その傾向は強いようです。
争族を避けたければ、遺産を誰にどのように託すかを決めておく遺言作成がとても大切なのです。エンディングノートでは法的効力がありませんから、遺産に関しては遺言が必要です。
主な遺言の形式として「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」があることはご存知の方が多いでしょう。公証役場で作成してもらうことで内容の不備がほぼなく、保管もしてもらえるために紛失の危険性もない公正証書遺言がやはり安心です。でも2020年7月から、自筆証書遺言を法務局で保管する制度が始まり、様子が変わりました。
この制度では、原本だけでなく電子データとしても保管されます。内容に不備がないか、法的効力があるかまでは法務局は関与しませんが、少なくとも自筆証書遺言の「弱点」だった紛失や改ざんの危険性はほぼなくなりました。法務局に保管した遺言は、家庭裁判所による検認手続きも不要になります。
また、この保管制度には「通知」という仕組みがあります。遺言執行者や受遺団体を通知先に指定しておけば、遺言者の死亡が確認された時点(自治体への死亡届と連動します)で、法務局が遺言を保管していることを知らせてくれるのです。さらに、相続人らが遺言の閲覧申請をした場合、遺言を保管していることを、法務局が相続人全員に知らせてくれます。閲覧申請時には「法定相続情報一覧図」の写しなどが必要になりますから、それをもとに通知するのです。公正証書遺言にもない仕組みです。
私もこの制度を利用して、法務局に遺言を保管しました。思った以上に手続きは簡便で、費用は3900円。自筆証書遺言がとても利用しやすくなったと思います。実際、今年5月までですでに2万件近い利用がありました。繰り返しですが、法的に有効かどうかまで法務局はチェックしませんから、作成時に弁護士ら専門家に相談すればより安心でしょう。
遺言はあくまで手段です。肝心なのは遺言の内容。選択肢の一つとしていま注目されているのは、相続人以外の第三者であるNPOや公益法人、大学、美術館などにも遺産の一部を贈る遺贈寄付です。次回はその話を。
日本財団が提唱する、遺贈という名の選択
終活の中で、遺産相続に関する話題が増えてきているようです。自分の遺す財産を誰にどのような形で渡すのか決めることは、自分の考えを確認することにもなります。遺し方を決め、遺言書に書き記すことで、きっと貴方自身の考えをカタチにする充実感を得られることでしょう。
日本財団遺贈寄付サポートセンターでは、遺言書で自分の財産を社会貢献のために使いたいという方に、終活周りの情報提供もしております。お気軽にご相談ください。