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寄付日本経済新聞編集委員 山口 聡「寄付文化は根づいてきたとは言うものの...」
欧米に比べ寄付文化が根づいていないと言われてきた日本だが、2011年の東日本大震災を機に状況は変わり、着実にそれは浸透してきている――と、筆者は考えていた。そんな風に思っている人も結構いるのではないだろうか。
しかし、それは本当かと考え込んでしまった。21年末に日本ファンドレイジング協会が発表した「寄付白書2021」(ダイジェスト版)を見てからだ。一見すると、個人寄付の総額は11年に急増し1兆182億円を記録、翌年は6931億円に落ち込むが、その後着実に増えて20年は11年を超える1兆2126億円に達した。今後に期待が持てる展開だ。
ところが、その額にはふるさと納税分が含まれている。この分を除くと20年は5401億円。11年はふるさと納税が始まってまだ3年目でその額も少なく、その分を除いた寄付総額は1兆円以上あったので、20年の実質的な寄付総額は11年のおよそ半分しかない。
(注)「寄付白書2021」より、2013,15,17,18,19年はデータなし。ふるさと納税額は総務省
ふるさと納税はその名称が紛らわしいが、制度上は「寄付」に分類される。都道府県や市町村への寄付だ。ただ、税制上の優遇措置が適用され、手数料の2000円分を除いて寄付額は後に税金から控除される。実質的には2000円だけの負担。そのうえ、寄付先の自治体からは寄付したことに対するお礼の物品が送られてくる。返礼品のない純粋な寄付もあるものの、現実にはこのお礼の品目当てのお得なショッピング感覚でふるさと納税する人も多く、ここ数年は寄付額が急増している。
このようなふるさと納税をすべて個人による寄付に含めてしまうのはどうも違和感がある。そして、ふるさと納税分を除いてしまうと、日本の個人による寄付は順調に増えているとは言い難い。今後にあまり期待が持てなさそうな展開だ。
そんな少し暗い気分でダイジェスト版を読み進めていくと、期待が持てるところもちゃんとあったので紹介しておきたい。クラウドファンディングを活用した寄付の広がりや、経済的利益だけを目的とせず、社会に貢献することも目的とした投資行動の拡大だ。もう一つある。それはこのサイトの読者ならおなじみの遺贈寄付の動向だ。もちろんまだまだ数は少ないものの、着実に件数は増加している。1件当たりの金額も大きい。
考えてみれば日本経済は東日本大震災の前から停滞し続けている。特に若い人たちは寄付しようにもその余裕がない場合も多い。もうしばらくは、相対的に余裕がある中高年の人たちが寄付文化を引っ張っていく状況が続きそうだ。
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