読み物
終活立教大学社会デザイン研究所 星野 哲終活万華鏡 -3-
前回、簡単に触れたACP(愛称:人生会議)って何でしょう?
厚労省が作成したHP(https://www.med.kobe-u.ac.jp/jinsei/about/index.html)では、ACPについてこう書かれています。「あなたの大切にしていることや望み、どのような医療やケアを望んでいるかについて、自ら考え、また、あなたの信頼する人たちと話し合うことを言います」
ポイントは2つ。「信頼する人たち」と「話し合うこと」です。
人生の最後が近づいたとき、約7割の人は自分で医療やケアについて決めたり、意見を伝えたりすることができなくなるといわれます。その時に備えて、家族や友人、医療関係者ら、自分が信頼する人と繰り返し話し合うことで、自分の考え方や価値観を共有してもらうことを目指します。まさに対話です。信頼する人は誰なのか、あらためていろいろな人たちとのつながりを再確認する過程でもあります。
医療やケアについて希望を書面に残す「事前指示書」があればACPは不要でしょうか? 違います。事前指示書には問題点が指摘されています。主なものとして、生命倫理学者の松田純さんは以下の6つをあげています(『安楽死・尊厳死の現在 最終段階の医療と自己決定』2018年、中公新書)。
①執筆は自己決定できるが、実行は自己決定できない②事前指示書によって、過去の決定が将来の扱いを拘束する③指示内容が曖昧であると、実行できない④いざというときそこにない⑤法的に制度化されることによって生じる社会的プレッシャー⑥本人が認知症になった場合、症状が進行する前の意思が尊重されるのか、それとも現在の意思が尊重されるのか?
④は事前指示書を携帯していることはあまりないので、必要な場面で書面がその場にあるとは限らないことを指します。⑤は書くことが法律で義務付けられてしまうことを危惧しています。たとえば進行性の難病患者に事前指示書を求めることは、「早く死ぬ準備を」といった圧力になりかねないという意味です。
たとえば「胃ろうはしない」と事前指示書に書いた人が意識不明となり、家族が医師から胃ろうを勧められた場面を考えてみましょう。本人は当然ながらその是非を表明・要求することはできません(①)。治療がうまくいけば、また口から食べられるようになるかもしれないと医師が説明したとしましょう。それでも指示書に従って寿命を縮めるでしょうか?
ずいぶん以前に書いた指示書の内容と、いまも本人は同じ考えでいるのかはわかりません。人の意識や考えは変わります(②)。そもそもなぜ胃ろうを拒否したのか、どんな状態の場合を想定してたのか、書面だけでは思いがわからないのです(③)。また、胃ろうはわかりやすいですが、さまざまな病状に応じた医療行為についてあらかじめ具体的に示しておくことは難しく、書面だけでは現場は判断に迷うことが多いといわれます。
ACPなら、どうして「胃ろうはしない」と主張したかがポイントです。生命維持治療を否定的にとらえるテレビ番組を見ながら「無理に生かされて死ぬまで胃ろうをされるのは嫌だ」と言っていたとしましょう。別の場面では、「家族みんなで食卓を囲むのは楽しい。生きがいだ」と話していたとします。この人にとって、避けたいのは回復の見込みもない状態で無理に生かされ続ける状態なのであり、みんなで食事することが大切な価値だと考えることができます。そうだとすれば、一時的に胃ろうをしても、再びみんなで食卓を囲める可能性があるのだから胃ろうをしようと、納得したうえで指示書とは異なる決断ができるかもしれません。文章に明示されていない医療行為についても「この人ならこう考えたはずだ」と判断の手掛かりを得やすいのです。
ACPの愛称を決めた選考メンバーの一人、訪問医師の紅谷浩之さんは「決めなくてもいいのでたくさん話をする。あなたのことを知っているみんなで話しながら、迷いながら進んでいくこと。結論を話すのではなく過程が大切です。最期の場面を決めるものではなく、生きることを話す。それが人生会議だと思います」と私の取材に語ってくれました。まさにその通りだと思います。
やはり死が怖くて考えるのは嫌という人もいますから、話し合いを強制すればかえって本人のためにならない場合もあります。そもそも、忙しい医療現場がきちんと「対話」できるのか。そんな課題はありますが、うまく使えば、ACPは人とのつながりを大切にした終活の手段となるはずです。
日本財団が提唱する、遺贈という名の選択
人生の終わりに向けて、周囲の人たちと話し合っておくこと、特に医療行為など自分の望むケアについて、共有しておくことは、実りのあるものとなることでしょう。遺される家族や周囲の者たちに、自分の意思表示ができるうちにきちんと希望を伝えて準備をしておくことは、遺す者の務めではないでしょうか。
そういった終活の一環に遺言書の準備があります。日本財団遺贈寄付サポートセンターでは、遺言書で自分の財産を社会貢献のために使いたいという方に、終活周りの情報提供もしております。お気軽にご相談ください。