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日本経済新聞

かれんとスコープ

遺産寄付で生きた証し「終活」で社会貢献意識

 2017/1/8

遺贈を求めるNPOなどのパンフレット

 遺産をNPOや公的機関に寄付する動きが広がり始めた。子どものいない世帯の増加に加え、「終活」ブームで納得できる最期を迎えたい人が増えたことが背景にありそうだ。

「これでやっと肩の荷が下りた」。東京都内で経営コンサルタントを営む男性(69)は安堵の表情を浮かべる。

この男性には医師の妻と合計で約6億円もの資産があるが、夫婦に子どもはいない。そこで「自分たちが生きた証しを残したい」と死後に財産を寄付(遺贈)することにした。「自分たちは教育だけは十分に受けさせてもらった。次代の日本が元気になるように財産を活用してほしい」と昨年10月、遺産を教育分野に役立ててもらう内容の遺言信託の契約を銀行と結んだ。

夫婦が遺産の活用を委ねたのは、様々な社会活動を支援する日本財団(東京・港)だ。遺贈に関する同財団への相談は2013年の75件から16年に499件に増えた。16年4月に「遺贈寄付サポートセンター」を設置し、専従の職員を置いて対応している。

■子どもを持たぬ夫婦増加

同財団の長谷川隆治チームリーダーは「相談者の8~9割は“おひとりさま”か子どものいない夫婦」と説明する。相続人がいない場合、故人の遺産は国庫に入る。その額は15年度で約420億円だった。国庫に入るくらいなら「自分の意志で生前に使い道を決めたい」との思いが、遺贈につながっているようだ。

遺産からの寄付額は、財務省によると相続税の申告をしている人のみの合計で13年に約300億円。推移を示すデータはないが、NPO関係者の多くは「明らかに増えている」と口をそろえる。東日本大震災後の寄付意識の高まりも大きな要因のようだ。

公益財団法人の日本盲導犬協会(東京・渋谷)は収入の約95%を寄付で賄う。総収入に占める遺産からの寄付の割合をみると、01~05年度は平均16%だったのが11~15年度は同32%になった。年間の総収入も6億8600万円(01~05年度平均)から12億2800万円(11~15年度平均)へとほぼ倍増した。

寄せられる遺贈の額は1件あたり百万円単位から億円単位まで様々だが、同協会の吉川明理事は「遺贈する人の顔が見えるようになったのが最近の大きな特徴」と話す。

従来は本人と一度も会わないまま、死後に弁護士から電話がかかってきて申し出を受けるケースが多かった。近年は本人から連絡があり、犬の訓練などを見学してから決めたいという人が増えている。大金持ちよりも普通の人が多く、家族に目の不自由な人がいたり、犬好きだったりと「犬」や「目」に思い入れがあるのも共通点だ。

吉川理事は「終活が盛んになり、自分の最期について考える人が増えていることが遺贈の増加につながっているのではないか」と分析する。

NPO法人の国境なき医師団日本(東京・新宿)も、遺産からの寄付額は12年に約1億4000万円だったのが16年は約8億3700万円に増えた。遺贈への関心の高まりを分析しようと、14年からインターネットで全国の15~69歳の男女1000人を対象に意識調査を実施している。

調査では「将来大きな資産を保有していた場合、社会の役に立てるために遺贈したいと思うか」という問いに「遺贈をしたい」「してもよい」と答えた人は14年の60.6%から16年は67%に増えた。

■団体の見極め難しく

一方で課題も見えてきた。15年の調査で遺贈寄付への障害を尋ねたところ「遺贈の方法」(36%)や「寄付する団体選び」(33%)が上位に並んだ。手続きの煩雑さに加え、信頼できる団体を見極める難しさも遺贈を尻込みさせる要因になっているようだ。

実際、東日本大震災の際に復興事業に絡んでNPO法人が被災自治体から補助金を横領するなど、怪しげな団体による被害は後を絶たない。

寄付を募集する側も、まだ手探りの段階だ。京都大学のiPS細胞研究所は09年から研究基金を設け、寄付を募っている。遺産からの寄付は増加傾向にあるが、渡辺文隆・基金グループ長は「学内には『利益相反』の問題を懸念する声もあり、慎重に対応している」と打ち明ける。

■全国に相談窓口も

利益相反とは何か。たとえば医療機関が入院患者からの遺贈を受け入れた場合、早く遺産を手に入れるために医師が治療に全力を尽くさない恐れなどが出てくる。過去には老人ホームが入居する認知症の老人に、全財産を寄付する内容の遺言書を書かせて問題になったこともある。

不信感の払拭に向けた動きもある。昨年11月に国内の主なNPOや弁護士などが集まり「全国レガシーギフト協会」を設立した。全国14カ所に無料の相談窓口を置き、信頼できる団体などを紹介する。

生涯未婚率の上昇もあり、子どものいない世帯は今後も増え続けるとみられる。貧困など社会的な課題の解決には寄付文化の定着が欠かせない。税制なども含め、遺産を安心して寄付できる仕組みづくりは喫緊の課題となりそうだ。

■全国レガシーギフト協会・鵜尾副代表理事「終活ブームで関心高まる」

遺産を寄付する動きが広がっていることを受け、昨年11月に一般社団法人・全国レガシーギフト協会が設立された。副代表理事の鵜尾雅隆氏(日本ファンドレイジング協会代表理事)に設立の狙いを聞いた。

――遺贈寄付の現状をどう見ていますか。

全国レガシーギフト協会の鵜尾雅隆・副代表理事(日本ファンドレイジング協会代表理事)

「日本には遺贈寄付の全体像を把握できるデータはないが、大手のNPOなどの数字を聞くと、明らかにこの数年で遺贈寄付は増えている。1つの要因は2011年の東日本大震災による寄付意識の高まりだ。日本ファンドレイジング協会がまとめている『寄付白書』によると、14年の1年間を通じて金銭による寄付をした人の比率は43.6%。震災前の10年はこの比率が33.7%だったので、震災により寄付する人が10ポイントほど底上げされた計算だ」

「もう一つの要因はエンディングノートなどの『終活』ブームだ。雑誌などでも遺言や相続についての特集が組まれるようになり、自分の死について考えることへのタブー感が消えたことが大きい」

――生きている間は老後への不安があるので、なかなか大きな金額の寄付には踏み切りにくいという事情もあります。

「70歳や80歳になっても自分がこれから何歳まで生きるかは分からないし、老人ホームに入るなどで急にお金が必要になることもある。その点、自分が死んだ後なら大きな金額の寄付をしても構わないという人は少なくない。『寄付白書』の調査では、40歳以上の人たちの2割程度が遺贈への関心を示している」

「ただし実際に遺贈に踏み切る人はまだ少数だ。やり方がよく分からないという人が多く、寄付してもちゃんと使ってもらえないのではないかという不安も障害になっている。そこで全国レガシーギフト協会ではまず無料の相談窓口を作り、不安を払拭するところから始めることにした」

――NPOなどが遺贈を受けた後で、寄付者の相続人との間でトラブルになったという話も耳にします。

「遺贈によるトラブルを避けるために大事なのは、まず金額が配偶者や子どもといった相続人の遺留分(遺産をもらえる定められた最低限の割合)を超えないようにすること。それから、遺贈をしようとしている人が遺言書に『付言事項』としてメッセージを残しておくことも有効だ。自分が遺産を寄付する理由をきちんと書き残しておくことで遺族も納得しやすくなる。何も書き残さずにNPOなどに寄付すると、相続人が『自分のことを嫌いだったのかな』などと考え、わだかまりが残る原因にもなる」

「日本に遺贈寄付を根付かせる上で必要なのは、遺贈によって寄付者も含めたみんなが幸せになるという前向きなストーリーが共有されることだ。遺贈は寄付者が亡くなってから表に出てくる場合が多いため、なかなかそういう話が見えにくい。今後はそういう情報を集めて本にするなど、ストーリーを可視化することにも力を注いでいきたい」

(日本経済新聞:本田幸久)

2017年01月11日

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